炎の一筆入魂BACK NUMBER
忘れちゃいけない広島のキーマン。
福井優也、成長して投手陣の柱に。
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2016/03/20 10:30
3月15日のヤクルト戦は6回を投げ1失点で勝利に貢献した。昨季は自己最多の9勝を記録。初の2桁勝利を目指す。
期待と信頼が福井を変えた。
「マウンドだけでなく、日常生活から気持ちの波をなくせば、マウンドでも波はなくなっていくと思う。普通の生活も大事」
どんなに気分が沈んだときも、声を出してあいさつすることを意識した。
マウンドで足かせとなる繊細さは、自信で補うしかなかった。昨季は開幕前から「多少我慢してでも今年は福井をローテーションで使い続けたい」という畝龍実投手コーチの期待と信頼が突破口となった。5月から6月にかけて4連勝。好スタートを切ったことが明確な自信を得るための気持ちの余裕につながった。
先発の大瀬良大地が中継ぎに転向したシーズン中盤からは、先発4本柱の一角として責任を背負い、最後まで一軍で投げ抜いた。周囲から言われ続けた「普通にやれば勝てる」を証明した。手にしたものは9つの勝ち星だけではない。「普通にやれば勝てる」という自信が何より大きな収穫となった。
精神的な成長が制球難も改善。
自信を得る過程で捨てられたものもある。それは“制球難というレッテル”だ。入団当初のイメージが先行し、昨季もメディアが敏感に反応した。それも福井には重荷だったが、安定した投球を続けることでレッテルをはがすことができた。ストライクが入らず走者を溜めて失点する姿はもうない。改良したフォークでストライクを取れるようになった技術面も大きいが、余裕から自信に変わった精神面の成長がマウンドでの落ち着きを与えた。
今季は開幕から先発の柱として期待される。クリス・ジョンソンが開幕投手を告げられた3月1日、黒田博樹とともに開幕カードでの先発を告げられた。大瀬良を欠く先発陣の中で彼らとともに軸として回ることが求められる。
黒田や大瀬良に隠れ、メディアに大きく取り上げられることはなかったが、昨季から大きく立場が変わった。立場が変われば当然、重圧は増す。ただ、済美高では2年春に全国優勝し、早大では斎藤佑樹(日本ハム)らとともに大学日本一に輝いた。期待やプレッシャーは「力になるタイプ」と言い切る。元エースの前田や新エースと期待される大瀬良にはない、優勝運のある“持っている”投手なのだ。