ゼロで抑えることへの「執着」がなくなった？

　先日、涌井のことをよく知り、今春の自主トレを共にした岸孝之と話す機会があった。彼は涌井について、大一番での強さ、精神力、底なしのスタミナについて称賛し、彼のような投手がエースと呼ばれる存在にふさわしいとコメントした。

　まもなく訪れる2016年の開幕戦、大谷と涌井の対戦は、あの日のダルビッシュと涌井の関係のような見る者の心を熱くする記憶に残る投手戦となるのだろうか。

　近年、マウンドにいる涌井を見ていると何か「執着」のようなものがなくなった、そんな思いを抱くことがある。

　前述のインタビューでは彼はこうも答えていた。

「今は変に全部0（ゼロ）で、っていうのはないですね。そりゃあ全部0に抑えたいですけど、それを意識し過ぎると無駄なランナーを出したりもするので……」

　その答えに現在の彼の「強さ」を感じた。

最多勝をもたらした調整法。

　こうした「執着」がなくなったことは、今年の調整方法からも感じ取れた。

　今年2度目の実戦登板となった3月11日の埼玉西武戦は、開幕を目前にしながらも3イニング33球の投球で、一部報道陣を慌てさせたが、彼はそれをさもなんでもないように次のように語った。

「（球数は）足りないのかもしれないけど、もしかしたら逆にいいかもしれない。次回7回くらい投げさせてもらうと思うんですけど、イニングに関して不安はないですね」

　それは彼が、どこが真の勝負どころかを分かっている口ぶりだった。

　彼のコンディショニングを管理する楠貴彦トレーニングコーチに、現在の涌井の状態について訊いてみることにした。

　まずは、最多勝のタイトルを獲った昨年の調整法についてだ。

「石川（歩）なんかは開幕から全開で行くタイプなんですけど、ワク（涌井）は徐々に、徐々にと上げて行って秋口辺りの勝負のときに最高の状態に仕上がるように昨年はやっていました。シーズン最初のころからワクはしっかり走り込んで体を作るんですけども、暑くなってからも走り込みはしっかりして、最後シーズンがもつれたときにしっかり勝てればいいという、そんな意識でやっていました。それで結果も出たので、最終的には良かったんだと思います」

【次ページ】　増えた内野ゴロは、涌井にとっていい傾向。