球道雑記BACK NUMBER
「唯一の存在」ダルの11番を継ぐ大谷。
涌井秀章は開幕戦の相手に何を思う。
text by
永田遼太郎Ryotaro Nagata
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2016/03/19 10:50
昨年、2010年以来の二桁勝利とともに2009年ぶりの最多勝を手にし、完全復活をした涌井。いまや名実ともにロッテのエースだ。
「やっぱりダルと投げ合うのって……」
試合後、涌井への囲み取材が終わった時に感極まって涙を流す記者がいたことも、この試合がいかに見ている者の心を揺さぶったかを物語っていた。今年プロ12年目を迎える涌井のキャリアの中でも、名勝負の一つとして数えられるに違いない。
昨年涌井にインタビューをした際、この試合のこともさらりと振ってみた。
「今もダルビッシュのようなライバルと呼べる投手はいますか?」
すると、彼はしばらく考え込んでから次のように答えた。
「いないかなあ……(笑)。これは別に上から言っているんじゃないですけど、やっぱりダルと投げ合うのって1点を獲られたら終わりだなって、そういう気持ちで投げているんですよね」
涌井のスイッチを押すシチュエーション。
そこで、前述の札幌ドームの試合を引き合いに出してみた。
「他のピッチャーが相手なら1点を獲られても、全然(味方が)逆転してくれるだろうという気持ちがあるわけですよ。だからこれまで投げ合った相手で、そういう気持ちになれるのはダルだけだったかなあと思います」
唯一無二の存在、それが涌井にとってのダルビッシュだった。
昨年の9月、西武プリンスドームで繰り広げられた埼玉西武・菊池雄星との投げ合いはかなり見応えのある投手戦だったが、涌井は「あの試合は順位を競っている相手だったというだけで、違うと思います」と、別の感情であることを強調した。
もちろん、投手が戦うのはあくまで相手打者であり、相手投手と戦っているのではないのも重々承知だ。
それでも昨年の開幕戦で福岡ソフトバンク・攝津正と投げ合い、6回まで点を与えずチームを勝利へ導いた投球や、2010年5月7日の福岡ソフトバンク戦で和田毅と投げ合い、ノーヒットノーランにあと1イニングまで迫った投球など、涌井は大一番であればあるほど、相手が球界を代表するエース級のピッチャーであるほど、100%の投球でそれに応えてきた。そうしたシチュエーションが、彼の心のスイッチを自然と押す効果があるのかもしれない。