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オリックス・吉田凌の“昭和の精神”。
自己犠牲は時代錯誤か、大投手の証か。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2016/03/17 10:50
背番号1ではない投手が高校からいきなりプロ入りするのは実はとても珍しい。吉田凌はどんなキャリアを歩むのだろうか。
ダルビッシュ、田中も身を粉にして投げた瞬間が。
フル回転は秋の和歌山国体でも変わらなかった。左肘の炎症で大会での登板を回避していた小笠原の代わりに、吉田はマウンドに立ち続けた。
準決勝の智弁和歌山戦で、7失点ながら「最後まで行くつもりだった」と完投。試合後には門馬監督に連投を志願するメールを送ったといい、決勝戦でも5失点と苦しみながらも140球の完投。チームの負けられない想いを一心に背負い、東海大相模に甲子園、国体の二冠をもたらした。
吉田の行為は故障の原因になりかねないため、手放しで称賛できるものではないだろう。しかし、権藤博の「権藤、権藤、雨、権藤」といった連投を意味する有名なフレーズのように、エースと呼ばれた投手の多くが、故障の危険性を顧みずチームの勝利のため身を粉にして投げていたものである。
近年でもそうだ。'09年の日本シリーズで日本ハムのダルビッシュ有が臀部の不安を抱えながらも好投し、'13年の日本シリーズでも楽天の田中将大が160球を投げた翌日に抑えとしてマウンドに上がり、胴上げ投手となったではないか。
チームのためなら自分は犠牲になっても構わない――。時代錯誤な表現なのかもしれないが、このような「昭和の精神」が平成生まれの吉田には備わっている。
弱肉強食のプロ野球の世界だからこそ、吉田の強固なマインドはいつか必ず支えとなるはずなのだ。