錦織圭、頂への挑戦BACK NUMBER
錦織圭が検査官に半ギレしたことも。
テニス界のあまりに過酷な薬物検査。
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byHiromasa Mano
posted2016/03/17 10:40
2年前からドーピング検査の凄まじさを語っていた錦織。自身のランキングが上ったことが過酷な検査の理由だった。
新幹線のトイレで検査を受けた選手も……。
時間帯については早朝を指定している選手が多いという。夜の予定はどうなるかわからないが、早朝であればその日のスケジュールに関わらず、ほとんどの場合、家なりホテルなり滞在中の場所にいるからだろう。
錦織も午前6時から7時の間を指定しているそうだ。
「6時に家のドアがノックされると、『あ、来たか』って感じですね」という錦織のように、すぐに察してくれればいいが、女子世界ナンバーワンのセリーナ・ウイリアムズなどは早朝に自宅の敷地内に入って来た検査官を不審者と勘違いし、警察に通報までしたことがある。
警察沙汰といえば、クルム伊達公子が就寝中に訪れた検査官と揉めて警察を呼んだという事件もあった(この場合は、指定時間外の抜き打ち検査)。
本人が一部始終をブログに綴って話題になったが、それによれば、就寝前にトイレに行ったばかりで検査に必要な尿が採取できず、水を飲んでもまだダメで、「待つ」という検査官と翌朝の練習のために早く眠りたいという伊達の間で押し問答となったらしい。挙げ句の果てに伊達がとった強攻策が警察への通報だった。普通はそこまでの騒動に至らないが、抜き打ち検査を歓迎するアスリートはいないだろう。
日本女子のトップ、土居美咲は家を出るところで検査官にばったり会ったことがあるという。検査をしていては新幹線に間に合わない。そこで、そのまま検査官も同行し、新幹線のトイレにいっしょに入って検査をしたというのだ。
ドーピング検査はアスリートの義務である。
錦織はそこまでの珍事は経験したことがないというが、トイレに行った直後のタイミングの悪い訪問はあったそうだ。
「水をガブ飲みして、あとは待つしかない。その間ずっと監視がいるので、横になって休んだりもできないですし、かといって話すこともないですし……。朝なんで、僕は半ギレの状態です(笑)」
無理もない。自分の家にまったくの他人がいて、自分の尿意をただ待っているという、一般人には異様な光景。ある程度慣れてくるものだとはいっても、そのストレスといったらないだろう。
マレーも昔、ウィンブルドンで敗戦の翌日早朝に検査官の訪問を受け、ツイッターでこんな皮肉をつぶやいて話題になった。
「朝っぱらから他人に見られながらトイレで用を足したよ。なんて穏やかな一日の始まりだろう」
しかし、それは肉体パフォーマンスで対価を得ている自分たちが果たさなくてはならない義務であることも、彼らは重々承知している。