錦織圭、頂への挑戦BACK NUMBER
錦織圭が検査官に半ギレしたことも。
テニス界のあまりに過酷な薬物検査。
posted2016/03/17 10:40
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph by
Hiromasa Mano
1週間前、イギリスのバーミンガムで世界2位のアンディ・マレーと4時間54分に及ぶ激戦を終えた錦織圭は、翌日の早朝5時にホテルを出て、ロンドンからアトランタを経由し、今年最初のマスターズシリーズの舞台であるインディアンウェルズに入った。
現地の月曜夜に到着し、火曜日はスポンサーのイベントやファンとの交流を含めたダブルスのエキシビションを実施。水曜は他の上位シードと同様にいくつものテレビのインタビューや写真撮影などをこなしたあと、各国メディアがトッププレーヤーを一人一人囲んで行なう取材。
マイクのある記者会見よりもざっくばらんな雰囲気だが、英語の最初の質問は、世間を騒がせているマリア・シャラポワのドーピング事件に関するものだった。
「詳しいことがわからないのでなんとも言えませんが、すごく驚いたし、悲しい。チームも含めて、もうちょっと注意するべきだったのではと思います」
慎重に言葉を選ぶように話す。こういうことに関して明確に自分の意見を述べるのもトッププレーヤーに求められる役割である。
八百長にしろ、ドーピングにしろ、それは不正を行なった本人だけの問題ではなく、その競技の未来に関わることだからだ。楽しい仕事ではない。
シャラポワは錦織と同じIMGアカデミー育ちで、昨年末にはエキシビションでいっしょにプレーしている。
「シャラポワが故意にやったとは思えない」
日本語に移ると、もう少し詳しく話してくれた。
「50位、60位の選手だったら故意にやってるかもしれないって考えられなくもないけど、シャラポワのレベルで故意にやったとは思えない。僕自身、トップ10になって検査の回数が異常に増えたし、その中で自分からやろうなんて考えられないので」
躍進した選手の検査回数が増えるという話はよく聞く。昨年は年に5、6回の抜き打ち検査を含め、1年で15回以上のドーピングは受けたはずだという錦織。
この抜き打ち検査については一般的にあまり知られていないだろう。
選手はWADA(世界アンチドーピング機関)に向こう3カ月の居場所を報告する義務がある。といっても毎日24時間どこにいるか伝えるわけではないそうだ。1日ごとに都合のいい時間帯を1時間選び、居場所を指定するのだそうだ。予定を変更すればそれを逐一報告しなければいけない。その報告に基づいて、検査官が指定時間に指定場所を訪れ、抜き打ち検査を行なっている。検査官が訪れたときに不在であれば警告を受け、その警告が3回に達すると、ドーピング違反の扱いとされる。