錦織圭、頂への挑戦BACK NUMBER
錦織圭が検査官に半ギレしたことも。
テニス界のあまりに過酷な薬物検査。
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byHiromasa Mano
posted2016/03/17 10:40
2年前からドーピング検査の凄まじさを語っていた錦織。自身のランキングが上ったことが過酷な検査の理由だった。
公平性を確保する努力がテニスの未来を守る。
テニスは苛酷なスポーツだ。深い駆け引きを要する一対一の勝負で、時に4時間も5時間も戦う競技がほかにあるだろうか。
2ゲームごとにベンチに座って水を飲んだりバナナを食べたりする気楽なスポーツだと思われていた向きもあるが、とんでもない。コート上ではテクニック、メンタル、フィジカルの全てが高いレベルで求められ、ベンチで休んでいるといってもその間も常に頭を使い、各自のルーティンの中で集中力を研ぎ澄ませている。
デビスカップのエース対決では、マレーも最後は足を引きずっていた。そんな中で両者が渾身の力をぶつけ合い、4時間半を過ぎてから30打以上も続いたラリーに、私たちは言葉を失う。しかしそうしたパフォーマンスが出来上がるまでのどの段階であれ、少しでも薬の作用があったのだとしたら、その感動は瞬時に色褪せるだろう。
八百長と同じで、そうなればプロスポーツの存在価値自体が薄れてしまう。
スポーツファンやテニスファンを自負していても、不正防止のために彼らに課せられた義務の大変さに普段から思いを馳せている人は少ないだろう。しかし、全ての選手たち、特にその代表であるトッププレーヤーが、一般人が決して経験することのない面倒で不愉快な検査をこなし、それらをクリアしているということは、頭の片隅に置いておくべきかもしれない。
自分の時代だけでなく未来へとテニスを守っていくために、彼らの多くは厳しい〈ルール〉を守っているのだ。
錦織を含めて多くの選手が今回の件について“sad”と表現した。憤り以上の悲しさ。当然だろうと思う。