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山中慎介がまさかの連続ダウン――。
余裕のV10が絶体絶命に変わった理由。 

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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photograph byKyodo News

posted2016/03/07 11:50

山中慎介がまさかの連続ダウン――。余裕のV10が絶体絶命に変わった理由。<Number Web> photograph by Kyodo News

試合後に「(この苦戦を受けて)練習再開からテーマを決めてやっていく」と、キッチリ修正していくことを意識していた山中。

「山中はアゴが弱い」というソリスの言葉。

 チャンピオンの地元と言える京都での試合が始まった。

 山中は初回、得意の左ではなく、右フックをきれいにソリスに合わせた。2回には再び右を決め、今度はソリスがヒザをついてダウンと判定された。早期決着のムードも漂う中、気になったのは、ソリスが山中の強打をまったく恐れず、思い切って踏み込んでいたことだ。ガードの上からでも山中の強打を浴びたボクサーは「これをもらったら終わりだ。慎重に戦おう」という姿勢が強くなるものだが、ソリスにひるむ様子が一切ない。「山中はアゴが弱い」というソリスの言葉が頭に浮かぶ。

 そして驚きのシーンが訪れる。3ラウンド、山中の右フックより先に、ソリスの右がチャンピオンのアゴをとらえた。山中が尻からロープ際に落下した。立ち上がった山中はソリスの猛攻を何とかしのぐも、再び右フックに右を合されてキャンバスに転がった。何とかゴングに救われたものの、V9王者陥落の瞬間はすぐそこに迫っているのではないかと思われた。

コーナーに座った山中は、絶体絶命の状態だった。

 このピンチを救うことができるとすれば、チャンピオンの参謀、大和心トレーナー以外にいなかった。3ラウンドと4ラウンドのインターバルは、山中のセコンドではこれまで1度も経験したことのないような1分間だった。

「(コーナーに戻ってきた山中は)もう何も話を聞けない状態でした。だから耳を思い切り引っ張って、つま先をバンバン踏んで、無理やりこっちを向かせました。相手の距離に入らないようにする。それだけ伝えましたが、4ラウンドに送り出すときはヤバイという気持ちでしたね」

 それでも山中は4ラウンドをうまくしのぎ、5ラウンドから持ち前のフットワークを機能させ、ポイントを確保していく。しかし、ソリスに攻勢を許す場面もあり、中盤以降も決して安心して見ていられるような展開ではなかった。特に「危ない!」と声が出そうになるのは、山中が右を出したときだ。3回に食らったダウンは、いずれも右に合されたものだった。

「返しの右フック(左ストレートを打ってそのまま右を返す)は危ないんです。使わないように言っても反射的に返してしまうので、途中からはフックではなく、返すならアッパーを返せと指示しました。本当はアッパーも返さないほうがいいのですが、アッパーであれば少し後ろ体重になるので危険が少ない。相手がリターンを当てにくくなるからです」(大和トレーナー)

 言わずもがな、山中の最大の武器は“神の左”と形容される必殺の左ストレートだ。課題は右だと言われ続け、だからこそ練習では常に右の強化を意識してきた。その右が初回からきれいに決まったため、ソリス戦ではいつも以上に右を多く使い、結果的に墓穴を掘ったということになる。

【次ページ】 “神の左”が徐々に変質していた!?

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