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3年連続の残留争いを戦う清武弘嗣。
取材エリアで爆発した感情と言葉。
text by
寺野典子Noriko Terano
photograph byAFLO
posted2016/02/23 10:30
ハノーファーの攻撃を一手に引き受ける清武弘嗣。ニュルンベルクで味わった降格の悲劇を再現しないために。
ブンデスのミックスゾーンは、感情的な場所。
多少状況が改善した後半も、チャンスらしいチャンスはセットプレーだけだった。FKでもCKでもキッカーを務めた清武が柔らかく丁寧なキックを放ったが、幸運をもたらすことはなかった。
そのまま0-1で試合が終わる。冷たい雨のなかサポーターの罵声が飛び交う。
「俺が入って、変えたいけど、全員が同じ意図を持ってサッカーをしないと変わらないし……」
清武は少し言葉のトーンを落とした。
ブンデスリーガでは、ピッチからロッカーへ引き上げる途中で話を訊くケースが多い。だから試合直後の感情を収める時間がないまま、選手はミックスゾーンに立つ。この日の清武も、苛立ちが隠せない様子で話し始めた。
スパイクを脱ぎ、足首のテープをとり、ソックスをおろす。その手を止めることなく、言葉が溢れだす。そして、わずか10分に満たない短い時間で彼の感情は変化する。空を見上げ、感情を押し留めるように目を閉じた。
3シーズン連続での残留争い。
ニュルンベルク時代から数えて、これで3シーズン連続での残留争い。2年前は危機感がプレッシャーとなり、清武自身も大胆さや豪快さが消えてしまった。そして「なんとかなる、なんとかしてみせる」とチームメイトを信じ、ポジティブなオーラを発散させながら、必死で現実に食らいつき、残留を決めたのが昨シーズンだった。
降格して後悔しない選手なんていない。
しかし、「やり切った」という想いのある無しが、プロサッカー選手としてのその後のキャリアに影響を及ぼすだろう。誰かにそれを押し付けるのではなく、厳しい現実、自身の力不足を受け止めて、担った務めを果たせなかった責めを負う。逃げずに戦えたという感触があれば、どんな悔しくやりきれない“結果”であっても、それを糧にできるはずだ。
しかし、ただ悪い流れにのみこまれて、流れつくように降格してしまったとしたら、得られるものは何もないのかもしれない。
どれだけ抵抗できたのか? その実感があれば、また上を目指せるのだ。