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香川真司も驚く「トゥヘル革命」。
ELポルト戦完勝で見せた2つの奇策。
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byREUTERS/AFLO
posted2016/02/19 12:00
ホームスタジアムの「ジグナル・イドゥナ・パルク」でポルトを迎えた監督のトゥヘル。リーグでは単独2位で首位のバイエルンを追う。
格下クラブから人気クラブへ移った監督の宿命。
そして今思えば、トゥヘルがドルトムントに来てから、自身の2つの特長を選手に植え付けた順番は実に理にかなっていた。
まずは、ポゼッションを主体としたサッカーをすることで、極端に引いてきた相手を恐れる気持ちを選手から取り去った。同時に、選手はそこにやりがいを感じた。
もしかすると、ようやく格下のマインツからやってきた指揮官が、ドイツ屈指の人気と実力をほこるドルトムントでいきなり相手に合わせたサッカーをしたら、反発を受けていたとしても不思議ではない。思い起こされるのはマンチェスター・ユナイテッドでファーガソンのあとを引き継いだモイーズのケースだ。
相手をいかにして止めるかに意識をむけたことで、チームに混乱をもたらした。当時のマンUで主力だったファーディナンドもそのように振り返っているが、もしもトゥヘルがシーズンの初めからリアクションサッカーを選手たちに求めていたら……。今のドルトムントはなかっただろう。
トゥヘルとドルトムントの輝かしい未来が始まった日。
よく比較されるペップの凄みは、自分たちのサッカーを追求し、それを押し通すための策を授け、実践させるところにある。
もしかするとトゥヘルは、そうした能力ではペップに及ばないかもしれない。
だがその代わりに、相手の長所を消しつつ、自分たちのサッカーを提示する能力がトゥヘルにある。復活を遂げつつあるドルトムントで、その道を究めていけば――。
ペップのコピーではないのかという自身に対する世間の評価も、ドルトムントというチームの存在意義も、変えられるはずだ。
奇策ともいえる策で勝利をつかんだポルトとの一戦は、トゥヘルとドルトムントの輝かしい未来の訪れを教えてくれた。いつの日か、そう語られてもおかしくないような試合だった。