錦織圭、頂への挑戦BACK NUMBER
錦織圭は「米国を代表する選手」!?
世界選抜の“エース”という立場へ。
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byHiroshi Sato
posted2016/02/17 18:15
小さくガッツポーズを見せた錦織。「当然優勝」という異常なプレッシャー下での4連覇は、紛れもなく偉業である。
“スター製造工場”だったアメリカの今。
表彰式で、女性のトーナメントディレクターが錦織を紹介するときに「Our champion(私たちのチャンピオン)」と親しみを込めて表現したのが印象的だった。
錦織も去年の3連覇の際に「ここに住もうかな」とジョークで愛着を表し、今年は「ここに来なくなることなんか考えられない」と語っている。そんなアメリカ育ちの日本人は大会の顔としてファンに愛されているが、その陰には、かつてジミー・コナーズやジョン・マッケンロー、ピート・サンプラスにアンドレ・アガシ、ジム・クーリエといった錚々たるアメリカ人王者にトロフィーを授けた同大会が、今では自国のスターを失った寂しさが感じられる。そしてその現実は、回り回って錦織にもう1つの責任とプレッシャーをもたらしているような気がするのだ。
先に挙げたアメリカ選手の多くを輩出したのは、錦織が13歳のときから拠点とするフロリダのボロテリー・アカデミー(現/IMGアカデミー)である。
〈スター製造工場〉とまで呼ばれたこのアカデミーだが、この10数年は男子のグランドスラム・チャンピオンが誕生しておらず、一昨年に全米オープンで準優勝し、トップ10を維持する錦織が〈工場〉の最高傑作だ。
次の世代も心許ない。アカデミーのホームページに紹介されている卒業生や在校生を見ても、錦織より年下となると、現在130位のライアン・ハリソンくらいしかいない。ジュニア時代から期待されたが、20歳のときに43位までいったのが最高で、今は23歳になっている。
錦織は日本のテニスを一身に担っていると同時に、アメリカの名門アカデミーも背負っているといっていいのかもしれない。
ヨーロッパ選抜vs.世界選抜という新たな大舞台。
IMGアカデミーの不作続きと重なるように、かつて隆盛をきわめたアメリカテニスが危機的状況に陥り、テニスはヨーロッパのものになった。
昨年のツアーファイナル出場者は錦織を除いて全員がヨーロッパ選手。そして、そういう現状の中で生まれた計画が、全豪オープン期間中に発表された『レーバー・カップ』だ。
ヨーロッパ選抜vs.世界選抜という団体戦で、オーストラリア・テニス協会とロジャー・フェデラーのマネージメント会社『TEAM8』などが共同で設立するという。1回目は3日間のイベントとして来年の9月の開催を予定しており、オリンピックの開催年を除いて毎年行なわれる予定だ。