錦織圭、頂への挑戦BACK NUMBER
錦織圭は「米国を代表する選手」!?
世界選抜の“エース”という立場へ。
posted2016/02/17 18:15
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph by
Hiroshi Sato
4連覇を決めたショットはトレードマークの〈エアK〉。メンフィス大会の決勝で、18歳の新鋭のパワーを封じ込め、小さく拳を握りしめた。決して派手ではないリアクションに、「勝って当然」と見られていたことへの自覚、それをやり遂げた安堵のようなものが見てとれた。
メンフィスは錦織にとっては負けるわけにいかない大会だった。世界ランキング7位の錦織は第1シードだが、第2シードは30位のスティーブ・ジョンソンまで一気に落ちる。過去2年も錦織は第1シードだったが、昨年はトップ30の選手がほかに4人おり、一昨年は錦織自身が17位で第2シードが26位と大差なかった。メンフィスのような〈250〉レベルの大会ではトップシードとして出場することにももう慣れた錦織も、これほど自分だけが頭抜けたドローは過去に経験がなかったはずだ。
世界のテニス界で、立場が逆転しはじめた錦織。
主催者が3つのワイルドカードを全て国内の10代の若手に与えたところに、話題作りに苦心した跡がうかがえる。しかし、その1人である18歳のテイラー・フリッツという昨年のジュニア・ナンバーワンが決勝まで勝ち上がり、3連覇中のトップシード錦織に挑むという展開になったことは、このメンツの中で考えうる最高のシナリオが実現したといっていいだろう。
8年前、18歳だった錦織がデルレービーチで予選から決勝に進み、当時世界12位のジェームズ・ブレークと対戦した構図と重なった。
当時、ブレークは28歳だったが、それ以前にすでに4位の経験があり、獲ったタイトルは10個という点など、今回の錦織との共通点が多い。そんな選手にATPツアー出場6大会目の244位が勝ったのだから衝撃的だったのも当然だが、「負けてもともと」という開き直りが持つ強さを知っている錦織だけに、今回、驕りも抜かりもなかったのだろう。初々しい挑戦を完璧に打ち砕いた戦いぶりにはトップ10の貫禄があった。