錦織圭、頂への挑戦BACK NUMBER
錦織の強さを吸い取ったジョコビッチ。
無敵王者に勝つ方法を知る者は?
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byHiromasa Mano
posted2016/01/29 18:15
「(ジョコビッチは)一番強い選手だったとはいえ、もう少し何かできたはず……」と試合後にコメントした錦織。
なぜ錦織はミスから挽回できなかったのか?
考えてみれば、あのブレークは手痛かったが、5セットマッチであることを考えればパニックに陥る必要はなかった。
完全なイメージが出来上がっていただけに、あまりにも失望が大きかったのかもしれない。第2セットは最初のゲームをブレークされ、次のゲームで2度ブレークポイントを握ったが生かせなかった。
このゲームでの4度のデュースや、第3セット第2ゲームから第5ゲームまでブレーク合戦という流れの中には、まだ錦織に反撃のチャンスが残されているようだったが、要所であと1ポイントが取れなかった。
ジョコビッチは「〈嵐〉を乗り切ってチャンスを待つ必要があった。なんとか持ち堪えて大事なところでいいプレーができたと思う」と試合後、満足の笑みを見せた。
また、前日にまったく練習せず、「休養」で錦織戦に備えたことを明かした。
ジョコビッチは4回戦でフルセット、4時間32分を戦っていた。それも、これまで9連勝している世界15位のジル・シモンを相手に、だ。
シモンは非常にスピードのある選手で、しつこくボールを返すが、5セットとはいえ100本ものアンフォーストエラーをおかすとは、ジョコビッチには考えられない内容。どうも今大会のジョコビッチは本来の姿ではなかった。前哨戦のドーハで5試合を戦っていたことも踏まえ、そろそろ休養をとる時期だと判断したという。
ジョコビッチは錦織の強さを逆に利用した!?
「シモンよりもさらにスピードのある選手(錦織)と試合をしないといけないんだからね。休息をとることは体にも心にも大事なことだった。実際、効果があった。減らすことで、より豊かになることもある」
ことわざ的なフレーズも使って、錦織戦を迎えるにあたっていかに自分がフレッシュな状態であったかを説明したジョコビッチ。逆に言えば、「過ぎたるはなお及ばざるがごとし」ということになるが、このさじ加減と決断の勇気は、経験のなせる業か。
大会中、毎日会場で発行されるデイリープログラムには、某テニス記者がその日の注目カードのセット数を予想するコーナーがあるが、あとで読んでみると、ジョコビッチと錦織の試合を「3セットでジョコビッチ」とピタリと当てていた。書いているのは、錦織ファンだというカナダのベテラン記者だが、「4回戦ではらしくないプレーだったジョコビッチだが、スピードがあって才能豊かな錦織を相手に気合を入れ直す」と添えていた。