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柔道男子100kg超級は横一線の争い。
七戸龍vs.原沢久喜、代表争いの鍵は?
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byKyodo News
posted2016/01/11 10:30
12月のグランドスラム東京で原沢(右)が七戸に勝利し、代表争いは混沌を極めている。
「対リネール」という金メダルを見据えた選考基準。
代表選考の中心はもちろん今後の成績だが、同時に、この階級ならではの観点がある。
それが、「対リネール」だ。テディ・リネールは、世界選手権では無差別級、100kg超級あわせて史上最多の8度の優勝を誇り、ロンドン五輪でも金メダルを獲得している。「柔道界最強」と呼ばれることもあるが、それにふさわしい成績を残してきた。
日本は、リオデジャネイロ五輪代表選考に関して、文書で選考基準を公開している。その根本として、「金メダルを獲得できる可能性のある選手を選考するため」とある。
男子の最も重い階級は、日本が看板としてきた、誇りとしてきた階級だ。過去には山下泰裕、斉藤仁といった名だたる柔道家が活躍してきた。ロンドン五輪こそメダルを逃したものの、2004年のアテネでは鈴木桂治、2008年の北京では石井慧が金メダルを獲得している。
リオデジャネイロ五輪で、再び日本柔道は復権を目指している。そのためには、リネールを破らなければならない。七戸はリネールに世界選手権で連敗中、原沢は合宿で組んだことはあっても、リネールと大会で対戦したことがない。初顔合わせは上位にいる選手にとって、案外いやなものだ。その点から「原沢が面白いんじゃないか」という声も聞かれるし、「実際に対戦した経験から七戸は対策を考えられるだろう」という意見もある。
今後も拮抗した成績を残していったとき、選考の鍵を握るポイントの1つとなるだろう。
井上康生氏が監督に就任後、選手を尊重した上での対話、指導における合理性などを加味して、男子は着実に再建へと進んできた。ロンドン五輪での銀メダル2つ、銅メダル2つから、昨夏の世界選手権で3つの金メダルを含む7つのメダルを獲得したのはその象徴だ。再建の成功を明確に示すことができるのは、最重量級にほかならない。
最後の勝負を分けるのは、執念である。
4年前、ロンドン五輪の代表争いでも、有力視された選手がそのまま代表になった階級があれば、土壇場でひっくり返した階級もあった。そのケースで問われたのは、最後の最後での執念、気持ちの強さにほかならなかった。
七戸は九州電力に入社後、営業職としてフルに働きながら柔道に打ち込んできた期間が長かった。出身の沖縄へ金メダルを、との思いも強い。
原沢も大学時代の激稽古をはじめ、柔道に注力してきた。
柔道界の期待を背負いながら、自身の思いを合わせ、どこまで勝利に対して執念を持てるか。そこが鍵を握る。