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最も主将らしくないと言われた男。
イニエスタが体現する“バルサらしさ”。

posted2015/12/16 11:00

 
最も主将らしくないと言われた男。イニエスタが体現する“バルサらしさ”。<Number Web> photograph by Mutsu Kawamori

主将として初めて臨んだクラシコでは今季初ゴールを決めた。クラブワールドカップでの躍動にも期待だ。

text by

豊福晋

豊福晋Shin Toyofuku

PROFILE

photograph by

Mutsu Kawamori

 アンドレス・イニエスタを最初に見たのは、彼がまだバルサで先発に定着する前の頃だったから、今から10年以上前のことになる。

 ひょろっとした体躯。青白い肌はアスリートのそれには見えなかったし、どちらかというと欧州によくいる、日本の漫画やアニメを愛するオタク青年に映った。

 バルサの下部組織出身ではあるけれど、地方のラ・マンチャ生まれの彼はカタルーニャ人ではない。どうしても地元出身のシャビやセスクらとは違う目で見られる。声も小さくて、恥ずかしがりながら話す彼を見ていると、重圧のかかるサッカーの世界でやっていけるのだろうかと、不安に思ったものだ。

 それから時が経ち、2015年の彼の腕にはバルサのキャプテンマークがしっかりと巻かれている。

 インタビュー(臨時増刊号「バルセロナ最強の全貌。」)の撮影時、キャプテンマークを握ってもらった。

 昔ならやらされている感が出たはずの構図だが、さらりと自然に収まった。雰囲気だけではない。31歳を迎えたイニエスタは、実に見事にキャプテンの役割を果たしていた。

ピッチの内外で模範であり続ける。

 温厚な彼も、時折ロッカールームで注意することもあるらしい。バルサの主将というとプジョルの印象が強い。声を荒らげ、闘う姿勢を見せ、全身で感情を表現する、典型的なリーダーの姿だ。

 一方でイニエスタはそれとはまるで反対の性格である。寡黙で静か。若い頃は「声をはれ」と怒られたことがたくさんあったという。前任者たち、プジョルやシャビの姿を見てきて、思うことがあったのかもしれない。

 ピッチの上では天才的なプレーを見せ続け、外でも模範であり続ける。クラブとの年俸交渉でもめたことはないし、レアル・マドリーの選手とメディア上で口論することもない。

 指揮官ルイス・エンリケは言った。

「イニエスタは世界遺産なんだ」

 その言葉から滲み出ていたのは、バルサのスタイル、パスサッカーに対する誇りだ。

 メッシ、スアレス、ネイマールのMSNが並ぶことで、近年のバルサのサッカーはよりダイレクトになった。

 それでも、とイニエスタは言う。

【次ページ】 「根本にはバルサの伝統」

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