Jをめぐる冒険BACK NUMBER
“美味しい時間”を譲っての12ゴール。
34先発で33回途中交代した佐藤寿人。
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byKiichi Matsumoto
posted2015/12/08 11:30
佐藤寿人は今年、中山雅史の持つJ1通算157ゴールに並んだ。来年その記録が更新されることは確実だ。
寿人「自分の役割も変わってきた」
だが、佐藤はそれを受け入れた。すべてはチームの勝利のために。
「'12年、'13年に優勝したときは、ストライカーとしてチームを引っ張った自負があるし、数字上でも貢献できた実感がある。でもそのときから時間が経って、自分の役割も変わってきた。去年一度経験して、今年は本当に自分がやらなければならないことを客観的に見ることができた。もちろん得点数は物足りないけど、それ以外の部分でやらなければならないことを整理してやれたんじゃないかと思うので、こうして勝てたのは嬉しいし、若い選手の成長――拓磨が優勝に繋がる活躍をしてくれたのは本当に素直に嬉しいです」
自身のポジションを脅かす若手をさりげなく称えるあたりに、“寿人らしさ”がうかがえた。
寿人からスタメンを奪う難しさを最も感じているのは?
試合後の取材エリアで、広島の強さの一端を明かす森崎の言葉が、強く耳に残った。
「勝つチームというのはベテラン、中堅、若手のバランスが取れているものだと思います。うちはベテラン選手が行けるところまで行って、そのあと中堅や若手が出てきて活躍している。チャンピオンシップだけでなく、シーズンを通してもそうだった。最初から出る選手が全力を出し切るから、途中から出た選手が思い切ってプレーできるし、良い準備をしている選手が控えているから、最初から出る選手は託せるんじゃないかと思います」
途中出場の選手が輝けるのは、スターターとして自らのミッションを全力で遂行するベテラン選手――佐藤やミキッチがいるからでもあるのだ。
そうしたベテラン選手たちと信頼関係を築いたうえで、勝利のために、ある意味で非情な采配を貫ける指揮官の存在も含め、広島の「総合力」の秘密がそこにある。
今シーズン、佐藤がこなした役割を考えれば、Jリーグ史上初となる12年連続2ケタ得点と、中山雅史に並ぶJ1通算記録157ゴールの偉業も、より一層輝きが増す。
そんな男からスタメンの座を奪い取るのがいかに難しいことかを最も感じているのは、いつも彼と入れ替わってピッチに入る若きストライカーかもしれない。