岩渕健輔、ラグビーW杯と東京五輪のためにBACK NUMBER
ラグビー日本代表GMが教える、
7人制の楽しみ方と15人制との違い。
text by
岩渕健輔Kensuke Iwabuchi
photograph byAFLO
posted2015/11/27 18:20
15人制でも代表入りした藤田慶和だが、7人制には“スピード仕様”で臨んだ。
1日3試合を2日連続でこなす精神的負担。
7人制のメンバーに求められる資質としては、もちろん他の要素も挙げられます。個で勝負できる強さが決定的に重要なのは15人制と同様ですが、独特なメンタルの強さや調整能力も不可欠になってきます。
たとえば15人制の場合、試合のサイクルは1週間に1回。もちろんW杯のプール戦は5チームで構成されるために、3日間のみの休養で連戦するケースが出てきますが、基本的には長めの間隔が通例になっています。
しかし7人制の場合は、1日に3試合を行い、それが2日間連続する形になる。たしかに試合時間は前後半7分と短いので、選手の負担は15人制の試合よりも少なくなるだろうと考えられがちですが、話はそれほど単純ではありません。
他の競技同様、ラグビーの試合においても、選手たちは目の前にある試合に向けて、コンセントレーションを最大限に高めていきます。精神的に完全にフォーカスできていればこそ、的確な判断を瞬時に下したり、ゲームの流れを正確に読むことが可能になるからです。
同時に選手たちは、試合が終わった瞬間から、次の対戦に向けた準備に入らなければなりません。頭と心を一度白紙の状態にして気持ちを完全に切り替え、再び次の試合に向けて集中していかなければならない。これを1日3回、2日間で6回繰り返すというのは大変な作業です。肉体的な疲労の蓄積もさりながら、メンタルの消耗に打ち勝つのは至難の技です。
私自身、現役選手時代には15人制、7人制の双方で日本代表としてプレーした経験がありますが、7人制独特のメンタルコンディションの難しさは、なんどとなく肌で感じました。
戦術眼も15人制とは違う要素が必要。
関連して述べれば、7人制の試合では15人制の場合とは違った意味での戦術眼も必要になります。
私は先程、7人制のラグビーではスピードやフィットネスが非常に重要な要素になると述べました。このような説明を踏まえた場合には、やや逆説的に聞こえてしまうかもしれませんが、実は7人制の試合では、単純にスピードやフィットネスに優っているだけでは、必ずしも勝利に直結しない場面が出てきます。なぜか。選手の数が少なく、試合時間が前後半で各7分しかないからです。
7分間という「一瞬」の勝負を分けるもの。
皆さんも日常生活の中で実感されると思いますが、7分間が過ぎるのはあっという間です。特にスポーツの試合では、ほとんど一瞬の感覚だと言ってもいいでしょう。7分という枠の中で確実に勝利をたぐり寄せていくためには、戦術的な駆け引きやゲーム運びのスキルの有無が、きわめて重要になるのです。
このような特性は、スピードやスタミナに劣るチームにとってはまさに朗報となります。もちろん単純な比較は危険ですが、戦術で試合の流れをひっくり返せる可能性は、15人制より大きいと言ってもいいでしょう。
では7人制における戦術とは、具体的にどのような要素を指すのでしょうか。キーワードになるのは「セットプレーからのボール支配率」です。
7人制の試合では、15人制の試合に比べて、スクラムやラインアウト、あるいはキックオフといったセットプレーが展開される頻度が少なくなります。たしかに物理的な回数だけをカウントすればそうかもしれませんが、セットプレーの回数を試合時間で割っていくと、一般的な印象とはまるで違った構図が見えてきます。
たとえば7人制の場合、実際にプレーが行われる「インプレー」の時間は、前後半で約3分半ずつ。その中でキックオフが行われる回数は平均して6回程度、スクラムとラインアウトが合計で5回程度になるため、単純計算ではわずか3分半の間に、8回から10回程度、セットプレーの場面が訪れます。実際の回数は試合の展開によって変わってくるとはいえ、セットプレーの場面が訪れる頻度は、15人制の試合よりも、明らかに高くなります。
しかも7人制の場合には、15人制にも増してボール支配率が重要になるため、セットプレーでどれだけマイボールをキープできるか、あるいは相手ボールのセットプレーで、自由にボールをキープさせないようにするかは、勝敗を大きく左右します。15人制のイングランド大会では、スクラムやラインアウトといったセットプレーでボールをキープできたことが、日本代表の勝因の一つになったとされています。7人制の場合もセットプレーは15人制と同程度、あるいはそれ以上重要になってくるのです。