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フランスが抱えるテロ対策の難しさ。
現地スポーツ誌記者が解説する背景。
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph byAP/AFLO
posted2015/11/25 10:50
パリ北部郊外、スタッド・ド・フランスの外で黙祷を捧げる人々。このスタジアムは'98年W杯が行われた場所でもある。
善良な市民のなかからテロリストを判別するのは難しい。
――それは間違いないのか?
「だから彼らはフランスに戻って来れるのだ。彼らには監視が必要だが、フランスには十分な数の警官がいない。彼ら全員を監視することはとてもできない」
――それはフランスだけのことか。ドイツやイタリア、イングランドなどの近隣諸国も状況は同じなのか?
「イングランドやドイツも同じだが、数はずっと少ない。それからひとつ強調したいのは、フランスには西アフリカやマグレブ諸国からの移民が大勢いることだ。端的に言って、彼らの大多数を占める善良な市民のなかからテロリストを判別するのは難しい」
監視をするのに3万4000人の警官が必要だが……。
――顔や服装からは判断できないということか?
「その通りだ。たしかにドイツにはトルコ系移民がたくさんいるが、ノルウェーなどの北欧諸国はアラブ人の数が少ない。アフリカ系も多くはない。だから監視も容易であるし、どんな人間であるかの識別も難しくはない。
フランスは違う。今日のフランスでは、アラブ系やアフリカ系の人々が人口に占める割合が高く、テロリストかどうかの判別をつけにくい。もちろん大多数は善良な市民であるのだが。
例えば1月に『シャーリー・エブド』を襲撃したテロリストの中には“クワシ兄弟”がいた。彼らはフランス警察から要注意人物の指定を受け監視下に置かれていた。しかし6カ月に及ぶ監視の後、彼らに不審な行動が何もなかったために、警察が監視を解除した。その1カ月後、つまり監視を始めてから7カ月後に彼らはテロを実行した。
1月に警察が説明したところによると、シリアから来たひとりのテロリストを効果的に監視するためには20人のスタッフが必要であるという。ひとりのテロリストに対して20人の警官ないしは情報局のエージェントがいるわけだ。現在、シリアから戻ったフランス人は、おおよそ1700人であると言われている。彼ら全員をしっかり監視するためには……計算上では3万4000人の警官を集めなければならない。そんなことは不可能だ」