ワインとシエスタとフットボールとBACK NUMBER
フランスが抱えるテロ対策の難しさ。
現地スポーツ誌記者が解説する背景。
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph byAP/AFLO
posted2015/11/25 10:50
パリ北部郊外、スタッド・ド・フランスの外で黙祷を捧げる人々。このスタジアムは'98年W杯が行われた場所でもある。
イスラム国は破格の待遇で勧誘をしている。
――1700人というのは、他の国と比べてずっと多いのか?
「おそらくは最多なのではないか。その次がたぶんチュニジアだ。チュニジアはヨーロッパではないが。しばらく前に私は、チュニジア首相のインタビューを読んだ。それによるとチュニジアでもここ数カ月の間に数多くのテロが起こっているという。
問題は、ダーイシュが失業して職のないチュニジアの若者に対して2000ユーロのサラリーで戦士になるよう勧誘していることだ」
――2000ユーロというのは年収か、それとも月給か?
「月給だ。チュニジア人にとっては破格だ。ひと財産といっていい。フランス人にとっても好条件だ。チュニジアの首相がいうには、仕事のないチュニジアの若者には夢のような額とのことだ。
つまりイスラム国との戦いは、経済的な戦いでもあるわけだ。この戦いに勝つためには、石油を買うことを止めねばならないし、綿を買うことも控えねばならない。イスラム国で産出・生産されるすべてのものを買うことを止めねばならない」
何気なく買うTシャツがイスラム国の財源になることも。
――たしかに問題は根深い。
「フランスのテレビ局が興味深いドキュメンタリーを制作した。イスラム国の財源がどこにあるかを追ったものだった。石油が大きいのだが、石油の場合はトルコやアゼルバイジャン経由で運ばねばならずトラックの確保が難しい。だからちょっと複雑で、今、石油に代わって最大の財源となっているのが綿(コットン)だ。シリアは綿の一大産出国でもある。そしてトルコは、中国やインドなどと並び、Tシャツなど綿製の衣料品の世界的な生産国だ。だから何気なくTシャツを買うことが、ダーイシュを財政面で助けることになる」
――それが本当のことなら……恐ろしいことだ。
「イスラム国が安価な綿を販売し、トルコの工場でそれを原料にしてTシャツを生産する。安い原価の綿で作ったTシャツをフランスやドイツ、イングランドに輸出する。利益は膨大だ」