プロ野球PRESSBACK NUMBER
“2000本安打”の真髄を伝えたい……。
広島の打撃コーチ・石井琢朗の現場感。
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2015/11/13 10:30
背番号75を背負った石井コーチ。秋季キャンプではタブレット端末を用いて打撃指導を行なった。
三位一体のコーチ陣で徹底的に選手をサポート。
彼らをサポートするのは、迎祐一郎打撃コーチ補佐。現役時代にオリックス、広島と多くの指導者と接し、今季は新井宏昌前打撃コーチの下で学んだ。選手の個性や特徴、選手たちが接してきた指導法を一番知っている存在だ。
3人体制となることで、石井コーチが「選手が迷わないように」と話すのは、今季からの上積みという意味でも連係が重要となるからだ。唯一の右打者である迎コーチ補佐は選手の兄貴分的存在で信頼も厚く、今季までの色を知る意味でも大きい。三位一体の形が、チームを正しい方向へ誘う。
伸び悩む堂林翔太が受けた「プチ戦力外通知」。
練習では振る力を養い、実戦では有効打を求める。
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「打線は水ものと言われる通りだと思う。打てないときにいかに点を取るか」
同じアウト1つでも、空振り三振では何も起こらないが、バットに当てさえすれば何かが起こる可能性はある――。
野球は失敗のあるスポーツだ。マイナスをいかにプラスに転じる攻撃ができるか。フリー打撃時から、状況を常に設定しながら打たせている。
レベルアップを図るキャンプの中で、石井コーチがただ1人ゼロから作り上げていくことを告げた選手がいる。堂林翔太だ。1軍にデビューした'12年に全試合出場、しかし翌年から出場試合は下降線をたどり、今季は33試合の出場に終わった。
「伸びている感じがない。このままでは終わってしまう。1度壊すつもりの覚悟があるなら、やろう」
堂林がフェニックスリーグからチームに合流した10月末。石井コーチは直接伝えた。
堂林も覚悟を決めた。
「はっきりそう言ってくれる人もいない。自分の中でも危機感はありました。でも、ああやってプチ戦力外通告のように受けて、本当に怖くなった。(石井コーチに)預けてみようかなと思います」
落合博満の神主打法のような構えから、ゆったりと振り出す。以前までの形とは全く違う。今は結果にとらわれず、魅力の長打力を伸ばす打撃スタイルを二人三脚で作っている。
広島の秋季キャンプは長い。猛練習には理由がある。
「意識が変われば、一人でやるときも工夫をするようになる。選手にとってそれが一番大事」
キャンプが終われば、自主トレ期間の冬が待っている。石井コーチは秋の実りだけでなく、本当の戦いである春に向けた種も撒いている。