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2016年の「12球団1位指名」候補。
田中正義の本質はワザと距離感!?
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2015/11/11 10:40
高校時代は故障していたが、大学に入って投手に戻り開花した田中正義。
ネット裏からじゃわからない細かな“ワザ”。
横浜スタジアムの2試合。
走者を許すと、クイックのタイミングにバリエーションをつけながら、田中は微妙にタイミングを外して投げていた。
左足を踏み込むステップの幅を変えながら投げている。こういうさりげないワザは、ネット裏からじゃわからない。
ボールの威力に寄りかかって投げていない。
寄りかかってもいいんだ。そこまでの究極の球威の持ち主である。それなのに、自分の都合で投げていない。だから、よくある一人よがりな“欲望”を感じない。
打者の都合の逆を突いていこうとするしたたかさ。
稀代の剛腕・田中正義の意外な本質を見たような気がした。
すべての行為に、納得できる理由を。
このまま大きな故障なく、すこやかに成長していけば、コンスタントに150キロ後半なんて人間離れした所業もあっさりやってのけそうな大器ではあるが、そんな“単純”なことには魅力を感じそうもないような「投球人」としての奥深さを感じてしまう。
「一緒に食事に行っても、大学生はむやみに肉ばかり食べたがりますけど、彼にはそういうところがない。たとえば肉なら、一緒に何を食べればより栄養になりやすいのか。これだけのメニューを食べればカロリーはどれぐらいなのか。それは今日の自分にとって多いのか、不足しているのか。そういうことをいつも考えてます。いい筋肉をつけようとしてるんじゃないかな。私たちにとって食事は楽しみの一つですけど、彼の中ではトレーニングの一環。文字通り食トレになってますね」
ある関係者の方がそんな現実を教えてくださった。
すべての行為に<理由>を持ちたい。それも、必ず納得できる理由を。
田中正義の思いが聞こえてくるようだ。
当たりまえのように150を出せば155を。155が出れば、今度は160を。
この先、ドラフトまでの報道は彼を中心に過熱の一途をたどるだろうが、おそらく本人が意図する“方向”は違ったものになるはずだ。
長いリーチを豪快に投げ下ろすパワーピッチャーのように見せかけて、実は、想定と洞察と推理を巡らせながら、頭脳と感性とそして少々の“遊び心”を駆使して投げ進める稀代の技巧派。
そこが、人間を相手にアウトを積み重ねていく投手という仕事のいちばん面白いところ、いや、しびれるところ……なのかもしれない。