“渾身”ではない。涼しい顔の150。

　横浜スタジアムでの2試合。田中正義の投球内容はほぼ完璧。先発した2回戦の関東学院大戦では、立ち上がりに三塁打と中前安打で1点を失ったが、そこから一気にギアチェンジ。粘りのピッチングで以降を無失点に抑えると、翌日の上武大戦も3点を追う5回途中からリリーフ。1安打11奪三振の無失点に抑えるピッチングで、その実力の片鱗を私たちの前に披露した。

　ボールを置きにいって140キロ前半。ちょっと指をかけて140キロ後半。そこまでの田中正義に“力感”はない。全身の回転に右腕が勝手に振られているだけ。田中正義の長い腕がブラン、ブランして見える。

　ちょっと本気になったかな……、そんな印象の腕の振りで軽く150が出る。

　エイ！　ヤー！！

　日本人好みの“渾身”の全力投球には極めてほど遠い。吼えもしなければ、絶叫もない。すずしい顔の150である。

　このバカでかいエンジンはなんだ。ちょっとアクセル踏んだだけで、あっという間に100キロ超。運転したこともないが、そんな外車のイメージが浮かぶ。

指先が描く曲線が、あまりにも大きい。

　そして、その長い腕。これがすごい。

　なにがすごいといって、ダグアウトの上方から写真を撮るのに全身をアングルに入れようとすると、腕の振りの頂上で田中正義の指先がきれる。それほどに彼の指先が描く“円弧”は大きい。

　これは、どういうことか。

　少々ややこしい話になるが、投手はその腕の振りの遠心力を利用してボールを投げ、その指先が描く円弧が大きければ大きいほど、その遠心力も増大し、それはボールのスピードや威力に置き換えられる。

　ちょっと力を入れれば150キロ。

　田中正義のパワーの根源になっているこの大きな大きな腕の振りの円弧が、ダグアウトの上方からの角度で見ると一目瞭然。ボール6個を一度に握れる長い長い指すら見えるようだ。

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