マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
親指が捻じ曲がった高橋純平の直球。
「辛抱の夏」を越え、完全復活。
posted2015/11/10 10:50
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
Masahiko Abe
県岐阜商・高橋純平が戻った。
ドラフト直後、県岐阜商のブルペンで受けた高橋純平の全力投球。ストレートがうなった。
「今が夏だったら、全国優勝だったな……」
私の構えるミットのすぐ後ろ。ネット越しに見ていたチームメイトのつぶやきが聞こえてきた。
ちょうど1年前。
秋の東海大会の高橋純平はすごかった。
コンスタントに145キロ前後。まだ2年生の秋に、それだけだってすごいのに、時おり構えた捕手のヒザの高さに147キロだの、148キロだの。低めに140キロ後半で伸びるストレートが投げられる投手なんて、プロだって“エース級”しかいない。
とんでもないヤツが現れた……。
背中をぞくっとさせながら、そんな剛球とは似ても似つかぬなんともすずやかなマウンドのユニフォーム姿を眺めていたものだった。
センバツではMAXではなかったが、それでも。
その秋を見ていたから、センバツの高橋純平は何か物足りなく見えた。
3月下旬のまだ投げ込み不足の時期。この怪物のMAXが見られるわけはない。しかし、それでも、キラッと輝いた瞬間があった。
初戦の松商学園戦。
立ち上がり、カーブが抜けてストライクにならずに苦しむ高橋純平。しかし1-1の3回、先頭打者に四球を許して安打が続いた1死一、二塁。このピンチでこの日初めて、高橋純平のカーブが捕手・加藤惇矢の構えたミットに決まったのを私は見逃さなかった。
そこから一気に彼のピッチングが変わる。考え考え投げていた腕の振りから、“迷い”が消えた。
「こうやって投げれば、あそこ(ミット)にカーブが行くんだってことが確かめられたので。それからはもう、その感じさえ忘れなければいいので」