サムライブルーの原材料BACK NUMBER
エディージャパンに学ぶ逆転の発想。
ハリルに語って欲しい「全体設計図」。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byTakuya Sugiyama
posted2015/09/29 10:30
スポーツ史上最大のジャイアントキリングとも言われたラグビーW杯南アフリカ戦。サッカー界でも再現なるか。
スクラムも、終盤も、弱点だった。
新田コーチの話で、興味深いものがあった。日本のスクラムは長らくウィークポイントであったが、今や逆にストロングポイントになっているという点に注目してこう語っている。
「ダメだと思われたところが、今一番の強みになっているんですからね。日本人は元々重心が低くて、組み合いに対しても強いはずなんです。強化していけば、スクラムはもっと強くなっていくと思います。走力だって、日本人の能力は高い。
日本のラグビーは世界と比べると歴史がまだまだ浅いですよね。どの国であっても下のレベルから始まると思うので、日本人の特性を伸ばしていくことができればいずれフィジカルが弱いとは見られなくなるのではないでしょうか」
そして彼は言った。「逆転の発想」だと。
日本ラグビーはフィジカルと同様、終盤の戦いが課題と見られていた。
前回のニュージーランドW杯では、1次リーグフランス戦で後半に4点差まで迫りながらも終盤に失速して敗れた。最終戦のカナダ戦では終了5分前まで8点差をつけていたが、同点に追いつかれて勝利を逃がしてしまっている。
新田コーチはチームを代弁して言う。
「最後の20分で他のチームよりも勝ろうと、力を出し切ろうとそこを目指してきました。フィジカルが上がってきただけじゃなく、日本には最後までチームとして組織的にプレーできるという強みもあります。日本人の特性を考えたら、単純な数式では成り立たないものがあると思うんです」
「短所」が「長所」なりうるという発想。
粘り、精神力、スタミナをもってすれば終盤は「短所」ではなく、実は「長所」ではないかという発想。
世界一ハードなトレーニングには、「短所」を「長所」に変える目的もあったようだ。それに耐えうる日本人の真面目な気質を計算に入れながら、新田の尊敬するエディー・ジョーンズがW杯を逆算しながらつくり上げていったわけだ。指揮官は日系米国人の母を持つクオーターで、妻も日本人。サントリーで日本一を経験するなど、日本の文化、日本人の特性、日本ラグビーを熟知している。「JAPAN WAY」に情熱を捧げてきたすべてがあの南アフリカ戦で、表れたと言える。
スクラム、終盤の戦い方。これまで指摘され続けてきた日本の「短所」が、「長所」となってあの奇跡が生まれたのだから。