スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
危険な走塁と容認プレー。
~MLBでまたもアジア選手が犠牲に~
posted2015/09/26 10:50
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph by
Getty Images
ピッツバーグ・パイレーツが試練に遭遇している。8月13日から29日にかけて14勝3敗の快進撃を見せ、首位のカーディナルスを激しく追い上げていたのが、8月30日から9月18日の20日間では8勝11敗と失速。一時は2.5まで詰まったゲーム差が、ふたたび4に広がってしまった。
このまま進めば、パイレーツは1本勝負のワイルドカードで強敵カブスと戦わなければならなくなる。そこを突破しても、ナ・リーグ最高勝率を維持するカーディナルスとのディヴィジョンシリーズ5本勝負が控えている。タフな日程だ。
ケチのつきはじめは9月1日から3日にかけて、地区最下位のブルワーズに3連敗したことだ。が、最もこたえたのは、チームの主力に成長しつつあった姜正浩(カン・ジョンホ)内野手の負傷事件ではないか。
事件は、9月17日、対カブス戦の1回表に起こった。先攻のカブスは、無死満塁のチャンスで4番アンソニー・リゾを打席に迎える。リゾの打球は平凡な二塁ゴロ。パイレーツは併殺を狙い、二塁のベースカバーに入った遊撃手のカンが一塁送球の構えに入った。
ここまでは定石通りのプレーだ。ところが、カブスの一塁走者クリス・コグランの右足がカンの左足を襲った。
ビデオで見ると、コグランはアイスホッケーのGKのように脚を扇型に広げ、カンの左膝下に絡めている。一塁送球の瞬間だから、カンの左足は突っ張ったままだ。あ、と思う間もなく、カンはフィールドに倒れ、もがき苦しみはじめた。診断の結果は、脛骨骨折+内側側副靭帯損傷+半月板損傷。加療に6カ月から8カ月を要するという重傷だった。
「殺人スライディング」は正当化されるか。
コグランのスライディングは正当化されるのだろうか。ビデオを見るかぎり、彼の足は二塁ベースに向かわず、ややセンター方向、つまりカンの左足に標的を定めている。つまり、あきらかに併殺を妨げようとする危険な走塁だ。これはちょっと、と私は思った。
近ごろはあまり使われなくなったが、一時は「殺人スライディング」などという物騒な言葉が日本の野球界でも使われていた。ダリル・スペンサー(元阪急ブレーブス)が'60年代中盤にときおり見せたクロスボディ・タックルは、古い野球ファンにはお馴染みだろう。'70年代の大リーグでも、「最もアグレッシヴなベースランナー」と呼ばれたハル・マクレイが、セカンド塁上でクロスボディ・タックルをしばしば見せていた。