スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
危険な走塁と容認プレー。
~MLBでまたもアジア選手が犠牲に~
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byGetty Images
posted2015/09/26 10:50
ベースを目指している中での事故、とはとても見えない姿勢でのタックルだが……。
岩村も、西岡も犠牲になった。
しかし、現在は選手の体格がちがう。マクレイの体重は80キロ程度だったが、コグランは90キロに近い。それと、古い話を蒸し返すようだが、コグランはマーリンズの新人だったときの2009年、レイズの岩村明憲に似たようなプレーを仕掛けた前歴がある。
このときの交錯プレーで、岩村は左膝の前十字靭帯と半月板を損傷し、シーズンの半分を棒に振った。復帰後は、負傷前の2年間は2割8分前後をキープしていた打率が1割台に急降下し、大リーグ撤退を早める原因となった。
そういえば、ツインズ時代の西岡剛も2011年、当時ヤンキースのニック・スウィッシャーに危険なスライディングを仕掛けられ、左足の腓骨を骨折している。西岡のミネソタでの生活が極端に短かったのも、この怪我と無関係ではあるまい。
併殺阻止を狙うこのスライディングは、英語ではテイクアウト・スライドと呼ばれる。そういう呼び名があるくらいだから、日本や韓国の野球に比べると、大リーグでの頻度は高い。逆にいうと、日本や韓国出身の内野手は、「きちんと」ベースタッチをしようとするため、被害に遭う確率が高い。だが、よくいえばアグレッシヴなこのプレーは、「ダーティ・プレー」と紙一重だ。
無駄なマチズモは野球には要らない。
以前(2014年1月)、「本塁上の激突の危険性」を指摘した際にも述べたことだが、野球は基本的に格闘技ではないし、コンタクト・スポーツでもない。なるほど、クロスプレーは存在するし、飛球を追う野手が衝突する事態も生じなくはないが、故意の体当たりやラフプレーを「身体を張ったプレー」などと褒めそやすのは、やはり本末転倒だろう。
捕手が本塁をブロックするのが禁止されたのと同様、併殺阻止を狙ったテイクアウト・スライド=危険な滑り込みにも規制はかけられるべきではないのか。
それがすぐにできなければ、ネイバーフッド・プレー(いわゆる容認プレー)の幅をもっと広げてもよいと思う。厳密なベースタッチを求めなくなるだけでも、野手の危険はずいぶん軽減されるにちがいない。有能な選手を怪我で失うのは、球団にとってもファンにとっても測り知れない損失だ。
そもそも(これは以前も述べたことだが)無駄なマチズモは野球には要らない。もしかするとアメリカ社会の多くも、建国当初から延々とつづいてきたマチズモの横行に、そろそろ辟易しはじめているのではないだろうか。タイ・カッブなどという例外もあるにはあるが、野球はもともと、好戦的な体質から離れたところにあるスポーツだと思う。