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阪神が失った優勝の“ラストチャンス”。
土台無きチームと待ち続けた指揮官。

posted2015/09/24 12:00

 
阪神が失った優勝の“ラストチャンス”。土台無きチームと待ち続けた指揮官。<Number Web> photograph by NIKKAN SPORTS

23日の巨人戦。三振に倒れたゴメスを見つめていた和田監督だったが……。

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鈴木忠平

鈴木忠平Tadahira Suzuki

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NIKKAN SPORTS

 またか。9月の秋風とともに迎える終わりだった。

 23日、巨人戦。9回に呉昇桓が伏兵寺内にサヨナラ打を浴びた。首位ヤクルトに4ゲーム、2位巨人にも2ゲーム離された。事実上の終戦だった。

「チーム全員が諦めない気持ちというか。何とか追いつこう。ひっくり返そうという。そういう思いはあったけど。今一歩足りなかった……」

 敗戦後、必ず「明日」を語る和田監督からもさすがに、その言葉は出てこなかった。ここまで鬼の形相で戦い続けた選手たちはどこか、穏やかな、淡々とした表情を浮かべていた。悔しくないのではない。そうするしかないのだ。口では「まだまだ」と言ってみても、頭で考えてみても、戦っている本人たちは肌で感じてしまう。これで終わりだ、と……。

 戦いの裏では衝撃的な事件が起きていた。ちょうど選手たちが試合前の練習をしていた正午頃、都内のチーム宿舎にいた南信男球団社長は、中村勝広GMが待ち合わせの時刻になってもロビーに現れないのを不審に思った。急いでホテルのスタッフに部屋を開けさせると、ベッドに横たわり、すでに息がなかったという。

 重要な一戦の直前だった。南社長は現場にいる人間の動揺を避けるため、GM急死の報は試合が終わるまで知らせないと決めた。それでも試合途中、インターネット上に速報が出てしまう。それを目にした球団関係者は「えっ! 本当なの……」と絶句した。

 監督、コーチ、選手たちは敗戦後に知って言葉を失った。今季の終戦と、タイガースの歴史に貢献してきた元監督の死が、悲しくも重なってしまった。

 9月のホトトギスは今年も鳴かなかった。

 1点ビハインドの8回、ベンチは守護神・呉昇桓を投入した。目前の一戦にかける背水の起用だ。そして最終回の攻撃、二塁打の走者を三塁へ送り、代打関本のタイムリーで追いついた。クローザーを前倒しで投入している状況だ。ここで一気に逆転しにいかなければ劣勢になる。ただ、和田監督は動かなかった。関本に代走も、大和に代打を送ることもなく同点止まり。直後に呉昇桓が打たれ、すべてが終わった。

いつも、最悪の事態を考えてから戦う。

 我慢の人だ。ベンチでは常に延長12回を想定するという。つまり、最悪の事態を考えて戦う。勝っていれば、追いつかれた時のことを。負けていれば、チャンスをものにできなかった時のことを。常にリスクを考慮する。ただ、結果が出なければそれは指揮官への批判となって跳ね返ってくる。

「まったく、動かないな……」

「ベンチが腹くくらないから、点なんか入らないよ」

 結果が出ない時の常で、チーム内からは不満の声が出てくる。21日のヤクルト戦(甲子園)をエース藤浪で落としてから3連敗。優勝を争うライバル2球団に敗れた。決着をつけられた。その間「この1点」が取れない場面が何度かあった。

【次ページ】 待って、待って、待ち続けたが……。

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