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阪神が失った優勝の“ラストチャンス”。
土台無きチームと待ち続けた指揮官。 

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鈴木忠平

鈴木忠平Tadahira Suzuki

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photograph byNIKKAN SPORTS

posted2015/09/24 12:00

阪神が失った優勝の“ラストチャンス”。土台無きチームと待ち続けた指揮官。<Number Web> photograph by NIKKAN SPORTS

23日の巨人戦。三振に倒れたゴメスを見つめていた和田監督だったが……。

待って、待って、待ち続けたが……。

 鳴くまで待とう――。

 我慢の人は選手を待った。流れを待った。タイムリーを待った。だが、ホトトギスは今年も鳴かなかった。

 3年連続の優勝争い。一昨年は8月末、昨年は9月半ば、そして、今年は9月の終わり。年々、希望は膨らんできた。頂に近づいてきた。

 ただ、実は誰もが心の奥底では気付いていた。それと引き換えに徐々に失っているものがあるということを……。

 そんな危機感を象徴する夜があった。

 まだ首位を走っていた1カ月前の8月25日、広島戦は台風の接近によって中止となった。マツダスタジアムへの練習に向かう際、チーム最年長の藤井彰人が数人に声をかけたという。

「きょうは、俺たちでメシ行かないか」

 俺たちとは、鳥谷、福留、鶴岡らベテラン勢。虎の屋台骨を支えている男たちが広島の中心街、新天地公園近くの店に集まった。口にすることは1つだった。みんながほぼ同じ思いを抱いていたという。

「今年が最後のチャンスかもしれない。俺たちで、絶対に優勝しよう――」

ベテラン選手たちの悲壮な覚悟。

 ここ数年、チームの中心は外国人選手であり、40歳近いベテランの自分たちだった。

 ラストチャンス。

 未来への危機感が、主力選手たちに決意を固めさせたのかも知れない。戦いの裏に、男たちの悲壮な覚悟があった。だからこそ今年の終戦は余計に重く、もの悲しく、脱力感を伴っていた。

 今年もまた、虎党は9月まで希望を持つことができた。低迷するより、はるかに幸せなシーズンだった。だが、これでいいと思っている人がどれくらいいるだろうか。

【次ページ】 動かなかったメッセンジャーとマートン。

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