プロ野球亭日乗BACK NUMBER
問題の本質は「誤審を認めた」こと。
映像が審判の裁定に優先する時代に。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2015/09/18 10:50
この写真ではフェンスの陰にボールが隠れていることから、ホームランであることが分かる。
広島のオーナーがもし訴えたら……。
ただ、間違いを認めても試合そのものの記録が覆ることはない。今回の田中のケースも記録は三塁打のままであり、試合は2-2の引き分けで動くことはない。
「これでウチが優勝できんかったらどうするんよ」
審判員の立場に一定の理解を示しながらも、こう怒りのコメントを語ったのは松田元オーナーだった。
極論すればこれで優勝を逃した場合には、広島はクライマックスシリーズのファイナルステージ最大6試合分の開催権を失うことになる。経済的な損失は億単位となるはずだ。機構が公式に誤審を認めたとなると、もし訴訟を起こされたら、果たしてNPBに勝ち目があるのだろうか、という問題が起きてくることにもなる。
そういう実利的な部分はともかくとしても、ごめんなさいと頭を下げることで、果たしてファンは納得するものなのか。どうしようもないと言えばどうしようもないが、それでも今回の事件が野球界に提起した課題は、謝罪して再発防止の決意を示すだけでは、とても解決の道にはならないということだったのである。
チャレンジ制度導入には30億円が必要?
MLBで導入されているチャレンジ制度は、今回のような審判団の思い込みを排するために、まったく当事者とは異なる第三者がデータセンターでビデオを解析して、最終判定を下すというものだ。それでも5月には、機構が誤審を認めてロサンゼルス・ドジャースに謝罪する事件が起こっている。
素直に誤りを認めて、謝罪すれば潔しとする日本的流儀が、これからも通用するのか? やはりチャレンジ制度導入に向けて何らかの手を打たない限り、ファンは納得しないのではないだろうか。今回の問題を受けて、機構と選手会側がいち早くチャレンジ制度の導入を含めて意見交換を行ったことは評価されるべきだろう。ただ、日本で米国と同等のシステムを確立しようとすると、データセンターの設立や地方球場でのビデオ設備の設置など、30億円近くの資金が必要になるだろうと、9月15日付のスポーツニッポンは報じていた。
審判の権威にすがるのではなく、真実を追求しようと思えばお金がかかる。資金不足のNPBにとっては、それもまた頭の痛いところである。