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迫るW杯の裏で進む、もう一つの戦い。
日本ラグビー界の今そこにある危機。
posted2015/09/05 10:40
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph by
AFLO
「みんな、頑張ってこいよ!」
「応援してるぞ!」
8月29日、秩父宮ラグビー場。ウルグアイに40-0で完勝を収めた日本代表に、温かい拍手と声援が送られる。W杯に向けた、日本国内での最後の壮行試合らしい光景だ。
ただし試合の帰りしな、ファンの間からは、晴れがましい舞台には似つかわしくない、日本代表の未来を案ずる声も数多く聞かれた。
原因は明らかだ。ヘッドコーチを務めるエディー・ジョーンズが、今回のイングランド大会を最後に、日本代表のヘッドコーチを辞すことが発表されているからである。
W杯の開幕前、しかも1カ月を切った時点でこのような発表がなされるのは、きわめて異例のことである。日本代表の選手の中には、「エディーの退任は関係ない」と気丈に言ってのける者もいるが、ポジティブなインパクトよりは、マイナスの影響が多いと捉える向きは少なくない。
エディー・ジョーンズは、なぜこのタイミングで日本ラグビーと袂を分かつことを決断したのか。本人は「代表監督は4年で十分だ」と語ったが、発言を額面通り受け取るのはあまりにもナイーブだ。
9月9日に発売される、ラグビー日本代表のGMを務める岩渕健輔氏の著書『変えることが難しいことを変える。』(ベスト新書)には、驚くべき一節がある。
「実は8月の中旬、日本にはオーストラリア、ニュージーランド、南アフリカの各国協会の重鎮が訪れていた。表向きはスーパーラグビーの参戦に向けた、日本側の準備状況を視察するためだ」
スーパーラグビー、そして2019年W杯も危機に。
しかし、真の狙いは他のところにあったという。
「一部の関係者は、(中略)日本側の準備の遅れをさかんに指摘するだけでなく、新国立競技場の問題まで持ち出し、『2019年にW杯を開催するのは難しいのではないか?』とさえ指摘してきた。
このセリフを聞いたときに、すべては腑に落ちた。もともと彼らはスーパーラグビーに日本が参戦することに難色を示した経緯があるし、2019年大会の招致活動でも最後の最後で日本に敗れている。スーパーラグビーの問題を足掛かりに、あわよくばW杯の開催権さえ奪おうとしているのは明らかだった。
さらに述べるなら、同国のスーパーラグビーチームが、エディー・ジョーンズをヘッドコーチに迎えたいと、破格の条件でオファーをしてきたのもこれで説明がつく。日本代表のキーパーソンにあえて白羽の矢を立てることによって、一気に本丸を攻め落とそうとしてきたのである」