錦織圭、頂への挑戦BACK NUMBER
錦織圭は、なぜ格下に“焦った”のか?
松岡修造が驚いたペールの「想定外」。
posted2015/09/03 16:45
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph by
AFLO
日本ではもう全米オープンはほとんど終わったかのようなムードらしいが、大会はようやく2回戦に入ったところで、まさに盛り上がりもここからという段階である。
錦織圭が敗れた相手、フランスのブノワ・ペールは2回戦を4セットで勝ち、3回戦に駒を進めた。金星のあとの燃え尽きであっさり敗れるケースは少なくないが、ペールはそういった型にはまらなかった。「型にはまらない」のはまさにペールの強みのようだ。錦織との試合を見ていた多くの人が、その“常識はずれ”のプレーに驚いたことだろう。
そうはいっても、過去の対戦からその特徴はある程度わかっていた。バックハンドの強打が武器で、それを時に無理やりな体勢からでもねじ込んでくること、ドロップショットを多用すること、そのタイミングはかなり無謀なケースが多々あること、何かにつけて主審に文句をつけるなどして試合を中断し、相手の集中力をかき乱そうとしてくること等々……。2年前の全仏オープンで対戦した錦織は、「独創的というか、彼独特のペースがある」と表現していた。
松岡修造が語るペールの「度が過ぎた」部分。
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今回のペール戦の解説をしていた松岡修造さんは、自身が言っていた「想定外のプレー」についてこう補足してくれた。
「ああいう選手だということは知っていたけど、度が過ぎた。あれほど圭にとってリズムの作りにくい相手は、127人の中で他にいなかったんじゃないかと思うくらいです。それに、あそこまで大事なところで強烈なファーストサーブが入ってくるとは思わなかった」
確かにそうかもしれない。だがその原因は、錦織側にあったのではないだろうか。つまり、昨年のファイナリストであり世界4位という今回の錦織の立場が、ペールの“非常識ぶり”に輪をかけ、このところ不調だったというペールのサーブすらうまく決まるようにしてしまったのだ。
実際にペールはあとでこう言っている。
「ドローを見て運が悪かったと思ったよ。去年のファイナリストで世界4位が相手なんて。こうなったら試合を楽しむしかない。ケイとの試合なら大きなコートに入るし、勝ち負けは関係なくそこでケイとの試合を楽しもうと思った」
ペールのあらゆる試みは勝つための手段ではなく、その奇抜な試み自体が目的だったのだ。だから、成功したときには手がつけられないし、そうかと思えばいともあっさりミス。ラリーが続かない。錦織はそういう試合が苦手だ。