錦織圭、頂への挑戦BACK NUMBER
錦織圭は、なぜ格下に“焦った”のか?
松岡修造が驚いたペールの「想定外」。
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byAFLO
posted2015/09/03 16:45
「来年は強くなって(全米の舞台に)帰ってきたい」とコメントして、全米の開催地から去った錦織。
「負けてもともと」で錦織に挑む選手達。
しかしまずは、この手のプレーヤーを調子に乗らせてはいけない。そういう意味で、錦織の最初の失敗は、第1セットを与えてしまったことだった。
初日の1試合目という緊張感もあっただろう。第1セット第3ゲームでブレークを許した直後、0-40のトリプルブレークチャンスを生かせなかったのも錦織らしくなかったが、実は今大会に限らず、このところ初戦の立ち上がりがあまりよくなかった。優勝したワシントンでも、初戦は95位を相手に第1セットを奪われている。モントリオール・マスターズでの世界48位との初戦も、スコアこそ6-3 6-3と簡単だったが、かなり手こずった印象だった。それも、錦織と対戦するときの格下選手の「Nothing to lose=負けてもともと」感の強まりからきていると考えられる。
昨年の終盤から、試練の一つとなると覚悟していた「挑戦される立場」。その試練を克服するための強度が、ひょっとしたらノバク・ジョコビッチやロジャー・フェデラーとの最大の差なのかもしれない。
ADVERTISEMENT
第2の失敗は第4セット。第2、第3セットを連取したことで、第1の失敗は帳消しになったにもかかわらず、第4セットのタイブレークが悔やまれる。6-4のダブルマッチポイントでサーブは錦織。さらにファーストサーブが入った。センターに返って来たリターンに対し、錦織が回り込んで放ったフォアハンドはサイドアウト。6-5。
「早く決めたいという焦りがあった。もっとじっくり攻めないといけなかった」
サーブはペールに移る。錦織のバック側に入って来たファーストサーブに対し、錦織のリターンはアウトになり、6-6。次はセカンドサーブへの攻めに失敗し、リターンがワイド。最後は自分のサーブからのポイントだったが、フォアを簡単にネットにかけた。錦織の言葉通り、終始“焦り”が見られたマッチポイントからの連続4失ポイントは、やはりペールにリズムを崩されていた影響と見るのが妥当だろう。
したいプレーか、相手の嫌がるプレーか。
そして最後になったが、錦織自身が試合全体を通して悔やむのが、「自分がしたいプレーより、相手の嫌がるプレーを優先しないといけなかったのかも」ということだ。
しかしこれに関しては、現場で話を聞いた何人かのコーチや解説者が否定する。たとえば日本の女子エース、奈良くるみを指導する原田夏希コーチは、「相手の苦手を考えて戦術を立てる選手もいる一方で、自分の直感、ひらめきで展開するプレーが超一流の選手もいます。圭の強さは直感のほうです。ただ、それがうまくいかなかったときに修正できなかったのは、ちょっとしたパニック状態だったのかもしれません」と分析した。