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足がつっても投げる投手を考える。
甲子園では「降板する勇気」も必要。
 

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氏原英明

氏原英明Hideaki Ujihara

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photograph byKyodo News

posted2015/08/12 16:30

足がつっても投げる投手を考える。甲子園では「降板する勇気」も必要。<Number Web> photograph by Kyodo News

足をつりながら完投勝利を果たした鶴岡東の福谷優弥。

「継投も考えましたが、福谷がうちのエースですので」

 高校野球を長く観戦していると、こういうケースで交代を申し出る選手は少ない。堀投手がそうであるように、エースには義務付けられた役割があるというのが、高校野球界の常識だ。

 初戦となった2回戦の鳥取城北戦で、夏の甲子園初勝利をあげた鶴岡東のエース・福谷優弥投手のケースも同様だ。福谷は、7回裏に打球を右足にあてながらも、143球の完投勝利を挙げた。

 鶴岡東の佐藤俊監督はいう。

「ウチには投げられる投手が他にいますので、継投も考えましたが、福谷がエースですので、行けるところまで投げさせようと思いました。足を引きずったり、彼が投げるボールが明らかにおかしくなったら、打たれる前に代えていたかもしれませんが、そんな感じじゃなかったので、続投させました」

 広島新庄は投手一人で戦ってきたチームだったが、鶴岡東は事情が違った。この日の先発投手がどちらかぎりぎりまでわからないほどで、背番号10の控え投手・松崎祥弥によると、「今日は2人のどちらかが投げるとだけ言われていたので、試合前からしっかりと準備していた」そうである。

 しかし、指揮官のコメントと「右足は痛かったんですけど、ここで代わったらエースじゃないなと思ったんで、交代する気はありませんでした」という福谷本人の言葉を聞く限り、選択肢は一つしかなかったというのが現実だろう。

自ら降板を志願した津商の坂倉誠人。

 一方、レアケースだったのが、津商のエース坂倉誠人だった。

 1回戦の智弁和歌山戦に先発し、強豪相手にリードして迎えた7回、2死を取ったところで、両手が痙攣し、一時治療を受けた。

 治療を受けて続投するというシーンはこれまでたくさん見てきた。しかし坂倉は、マウンドには戻ってきたものの、数球を投げたところで降板を志願した。

「これは無理だと思いました。僕が投げるより、2番手の石川雄基が投げた方が抑えられると思ったので、交代を志願しました。石川は信頼できるピッチャーなので大丈夫と思っていました」

 津商も、県予選を一人の投手で戦ってきたチームではなかった。

 だからこそ坂倉は、チームメイトにマウンドを託したのだが、「自分の投げる球より」と降板を決断したのは、自身の体調面を考慮しても、試合の勝敗においても賢明な選択だったと思う。この後石川は智弁和歌山の追撃を2点にとどめ、津商は強豪から勝利をあげた。

【次ページ】 本人の「大丈夫です、行けます」という言葉。

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