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疲労を武器にする創成館の最遅投手。
藤崎紹光「いい感じで荒れてくる」
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byKyodo News
posted2015/08/13 09:00
変則のサイドスローから、全国レベルの強豪も苦戦するクセ球を投げる創成館・藤崎紹光。フォームを維持できないことを武器にする、という発想も異質である。
ナンバーワンではないが、オンリーワン。創成館の二本柱のうちのひとり、藤崎紹光はまさに、そんな投手だ。
独特の左サイドから放たれるストレートの最速は、120キロちょっと。今大会、「柱」の1本として数えられる投手の中では、もっとも遅い部類に入る。それでも先発した初戦、強打で鳴らす天理打線を7回2失点に抑え、勝利に導いた。
持ち球はカーブ、スライダー、フォークの三種類の変化球と、ストレート。ところが、このストレートが三種類に化ける。藤崎が言う。
「最初の方は、そこそこきれいな真っ直ぐが行くこともあるんですけど、でも、すぐにシュートし始める。中盤以降、疲れがたまって腕が下がってくると、またいい感じで荒れてくるんです」
捕手の大田圭輔の説明によると、「だいたい4回ぐらいから沈み始める」のだという。
「ああいう独特の投げ方なので、普通のピッチャーよりも、フォームを維持するのが難しい。でも、それが彼のよさでもあるんです」
藤崎は「疲労」をも武器にしているのだ。
学校のバックスクリーンに収まらないほどの角度。
大田は変化の具合を敏感に感じ取り、軌道を計算しながらリードしている。
「例えば、左バッターのインコースに投げたいときは、真ん中に構えます。そうするとシュートして、ちょうどいい具合にインコースに食い込んでくる。いちおうインコースのサインを出しているので、藤崎も僕の意図はわかってると思いますよ。遅いですけど、藤崎の決め球はストレートなんです」
もともとコントロールが悪かった藤崎は、中学2年生のときに上手投げから横手投げに変えた。高校入学後、股関節の使い方を覚え、球速が増した。2年秋、リリースポイントを少し高くし、最速126キロまで出たことがある。しかし、結果はともなわなかった。
冬になり、ある紅白戦で先発したときに横に戻した。すると、いつも以上に打者が打ちにくそうにしていることに気づいた。対戦した打者がこんなことをもらした。
「バックスクリーンから腕ははみ出していて、見にくい」
学校の小さなバックスクリーンには収まりきらないほどの角度。それが自分の持ち味なのだと気づいた。そこから、クセ球にも磨きがかかる。