野球善哉BACK NUMBER
足がつっても投げる投手を考える。
甲子園では「降板する勇気」も必要。
posted2015/08/12 16:30
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph by
Kyodo News
また、だ。また、立たされている。
筆者が直面したケースでは、3度。試合中に身体のどこかに異常があった選手が、お立ち台に立たされていた。
そのうちの一度は、余計なお世話と思いながらも、近くにいた係の人に「試合中にけがをした選手は座らせてあげてもいいんじゃないでしょうか?」と声をかけたことがあった。結果は、「本人が大丈夫だといっている」といなされたが……。
今大会は、選手が試合中に足をつるなどのアクシデントが目立っている。甲子園という舞台の緊張感に加えて、気温35度を超える猛暑の中での戦いである。身体が悲鳴をあげるのも無理はない。どれほどの対策、ケアを施していても、グラウンド上での戦いは一筋縄ではいかない。
とはいえ、投手と野手では事情が異なるようだ。野手は比較的、交代選手を投入する傾向にあるが、これが投手となると交代するケースは少ない。「エースで勝ってきたから」、「うちには彼しかいない」……。限界を超えた状態で、マウンドに立つことを余儀なくされている投手の姿がよく見られる。
高校生投手はアクシデントがあっても交代したくない。
「8回になんか足がびりびりしていて、つっちゃったみたいで。9回も痛かったんですけど、最終回だったので、気持ちで投げました。勝ててほっとしました」
そういったのは広島新庄の2年生エース・堀瑞輝投手である。
初回から本調子ではなかったという堀だが、ゲームを作ることを心がけ、10安打を浴びながらも粘り強いピッチング。左足が痙攣したが、それでも9回133球を投じて完投勝利をあげた。
取材をしていて感じたのは、これほどのアクシデントがあっても、交代しようという気持ちが微塵もないのだなということだった。広島大会では全6試合に登板。マウンドに立つことが当たり前とされるプライドが、彼を支えていたようにも思う。「降板」という選択肢は、なかったのだろう。