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服部文祥 「サバイバル登山家の非サバイバル親子登山」 

text by

小堀隆司

小堀隆司Takashi Kohori

PROFILE

photograph byTakashi Iga

posted2015/07/23 10:00

服部文祥 「サバイバル登山家の非サバイバル親子登山」<Number Web> photograph by Takashi Iga

服部家の旅のルールとは?

 ここ乾徳山は日本200名山にも選ばれている甲斐の山。途中、銀晶水、錦晶水という湧き水のでる水場があり、中腹には風の吹き抜ける高原が広がる。さらに山頂直下では鎖場も待ち受けているというから、バリエーションは豊かだ。

 水場近くの岩に腰を下ろしたところで、改めて訊いてみた。服部さんは数ある山の中でなぜ乾徳山を選んだのだろう。

「まず、家からそこそこ近いこと。塩山にはよく鹿撃ちに来るから、エリアの全体像を掴めているのも大きいね。それと、この山だったらいざというとき子どもを背負って下りられる。親が一杯いっぱいの場所だと、子どもも余裕がなくなってブルーになるでしょ」

 服部家には、旅をする際に意識する独自のルールがある。目的地までのアクセスをよりシンプルにするのもそのひとつだ。

「今回も、横浜市内の自宅から新横浜までは自転車で来たんですよ。最寄り駅まで歩いて、さらに電車を乗り換える手間を省くために。乗り換えって不思議と疲れるし、旅をあまり特別なイベントにしたくないんだよね」

ただの観光で終わらせない。

 旅を特別なものと考えないとはどういうことなのか。服部さんはこんな例を挙げた。

「たとえばコアラを見にオーストラリアって、なんか違うと思うんだよ。生活の延長線でやらないと、ただの観光旅行で終わっちゃうから。だからうちは、家の裏山にはよく登ってる。地元でも少し歩いてみればまだ自然の豊かなところがあって、もう少し足を伸ばせば鹿だって撃てる。近所で鯉を釣っていたのが、ここに来ればイワナが釣れて、そこで焼いて食えるみたいな。アウェイ感がないというか、ここだったらほら、次に塩山に行こうって言えば具体的なイメージが持てるでしょ」

 背伸びをしない、ムリをしない。これは服部さんがこれまでの登山で身につけてきた人生哲学でもあるのだろう。もし極限のサバイバルでそれをすれば、命を危険にさらすことにもなりかねないからだ。

子どもには家の外にもっと広い世界があるということを知ってもらいたい、と言う服部さん。サバイバル登山家のイメージとは一見かけ離れたようにも見える親子登山ですが、そこにはいつも危険と隣り合わせの服部さんならではの思いがありました。
二人の登山の行方は、雑誌Number Do、もしくはNumberモバイルでお読みください。

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