フットボール“新語録”BACK NUMBER
ドイツのW杯優勝を支えた日本人。
「日本に『チーム・トウキョウ』を」
posted2015/07/06 10:50
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph by
Christian Schillings
「私たちと一緒に情報収集してくれるエキスパートが必要だったのです」
ヨアヒム・レーブ(ドイツ代表監督)
6月9日、ドイツ対アメリカの親善試合が行なわれる前日。ケルンの五つ星ホテルのパーティールームに、W杯優勝トロフィーを抱えたヨアヒム・レ-ブ監督が入ってきた。
その後ろにはGKコーチのアンドレアス・ケプケ、ブラジルW杯後にコーチに就任したトーマス・シュナイダー、そしてマネージャーのオリバー・ビアホフが続いている。ドイツ代表のトップがそろい踏みだ。部屋で待っていたのは、ブラジルW杯においてドイツ代表の分析を支えた約40人の学生たち。通称『チーム・ケルン』のメンバーだ。
約1年半前、レーブ監督は彼らに対してビデオメッセージでこう宣言していた。
「ブラジルW杯で優勝できたら、君たちに直接お礼を伝えに行くことを約束しよう」
その公約がついに果たされる日が来たのだ。
『チーム・ケルン』の唯一の日本人メンバー、浜野裕樹は、沸き起こる拍手の中「やっと会えた」という不思議な感慨に浸っていた――。
浜野が『チーム・ケルン』と出会ったのは、2013年1月のことだ。何気なく参加したサッカー分析のセミナーが、同チームの育成コースの初回だったのである。そのまま1年間にわたって訓練を受けることになる。
すべてのセットプレーを記録する地道な作業。
そして2013年12月、W杯抽選会の結果を受けて、チームが正式始動する。複数のグループに分かれて、それぞれに担当国が割り振られた。浜野のグループに与えられたのは、対戦する可能性のある4つの国だった。
ちなみに対戦する可能性が低いいくつかの国は、最初から分析の対象外となった。ドイツが準決勝まで進まなければ当たらない日本は、この時点でリストに入っていなかったという。
W杯に向けて、浜野が主に担当したのはセットプレー分析である。セットプレーのたびに映像を止め、スローで何度も見直す必要がある。気が遠くなる地道な作業だが、数がものを言うのがセットプレーのデータだ。
「試合を約1年半遡って、攻守におけるすべてのセットプレーをフォーマットに従って記録しました。10回中、何回は3番の選手に合わせた、という感じです。選手の並びや動きの矢印をエクセルとワードにひたすら記入する、すごく根気がいる作業です。ただその分、すごく勉強になりました」