フットボール“新語録”BACK NUMBER
ドイツのW杯優勝を支えた日本人。
「日本に『チーム・トウキョウ』を」
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byChristian Schillings
posted2015/07/06 10:50
ドイツ代表のレーブ監督(右)は全面的な信頼を『チーム・ケルン』においていた。日本人唯一のメンバーである浜野裕樹(左)は、主にセットプレーの分析を担当した。
チーム・ケルンとしてのW杯優勝は初めて。
「すべての分析を終えて迎えた決勝当日、浜野は自分の部屋でTVの前に座った。延長後半にゲッツェのゴールが決まり、外で優勝を祝うお祭り騒ぎが始まると、『チーム・ケルン』のメンバーで連絡を取り合い街に繰り出した。
「大会ごとに『チーム・ケルン』は学生を入れ替え、2006年W杯から脈々と受け継がれてきました。ただ、優勝したのは今回が初めてなんですよ。まわりも特別なチームとして見てくれる。その一員になれて本当に幸せです」
W杯優勝トロフィーとともに部屋に入って来たレーブを、『チーム・ケルン』のメンバーが輪になって迎えた。レーブはトロフィーを置くと、一人ひとりに丁寧に握手をした。
そしてマイクを握ると、レーブは感謝の気持ちを込めてスピーチを行なった。
「2005年にスカウト主任のジーゲンタラーのアイデアで、『チーム・ケルン』は発足しました。私たちと一緒に情報収集してくれるエキスパートが必要だったのです。
10年前、私たちは世界のサッカー界において後続グループにいました。苦しい現実と向き合わなければいけない時もありました。しかし、ここにいる全員が自分自身の仕事に取り組み、それがブラジルの地で報われました。
君たちもチームの一員です。最終的にとても大事な情報を私たちに渡してくれました。君たちの情報が、私とは違った切り口の新しいサッカーを見せてくれました。君たちが私の決断の際の力になりました。その感謝を込めて、言わせてほしい。ありがとう!」
これをもってブラジルW杯の分析を担当したチームは解散となった。ユーロ2016に向けて、また新たな学生たちでチームが結成される予定だ。
専門家を信頼し、仕事を任せるレーブの「器」。
ドイツ代表の活動を通して浜野が感じたのは、専門家による分業体制、およびコミュニケーションの大切さだ。
「レーブ監督がすごいのは、専門家を信頼して、仕事を任せることです。たとえばケルン体育大学のノップ教授は選手としてプロ経験はないんですが、『この練習はこうすべき』と提案するとレーブはきちんと耳を傾ける。器がとても大きい。だからSAP社のソフトやアメリカから来たアスレチックトレーナーもフルに生かせたんだと思います。組織としての風通しがいいので、コミュニケーションもスムーズ。それがW杯優勝の要因のひとつだと感じました」
浜野は“卒業式”を終えた今、次なるステップへの準備を進めている。
「仲間たちの中にはグラッドバッハやケルンの分析担当になったやつもいます。僕も研修先のクラブを探し始めました。ただ、クラブと代表は違う部分もある。『チーム・ケルン』の経験を生かして、将来は年代を問わず代表の分析に携わっていきたい。たとえば、学生たちで『チーム・トウキョウ』を結成するといったビジョンを持っています」
レーブの遺伝子を受け継いだ日本人分析官は、いつか凱旋を果たし、日本サッカーにおけるデータ分析の発展に貢献してくれるに違いない。