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アーセナルに久々の「守護神」降臨!
チェフの加入とリーグ優勝の可能性。
posted2015/07/05 10:40
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph by
AFLO
アーセナル指揮官としての19シーズンで記録した数は「15」。
アーセン・ベンゲルに関するこの数字は、残念ながら獲得した主要タイトルの数ではない。実は一軍戦で起用したGKの数。一般的には入れ替えが少ないはずのポジションだけに目を見張る多さだ。それほど、GKはアーセナルの泣き所だった。
1996年からのベンゲル体制下で真の「守護神」と呼べる存在は、前体制から受け継いだ正GKで、2003年に39歳でチームを去ったデイビッド・シーマンのみと言ってもよい。翌'03-'04シーズンにリーグ無敗優勝チームではイェンス・レーマンがゴールを守ったが、絶対的な存在感を示したのは同シーズンだけだった。'97年に獲得したアレックス・マニンガーから、昨季前後半にナンバー1の座を分け合った、ボイチェフ・シュチェスニとダビド・オスピナまで、自軍のゴールマウスには守護神になり切れないGKが相次いだ。
そのベンゲルが、ついに本物の新守護神を手に入れた。6月29日にチェルシーからの移籍が発表されたペトル・チェフだ。33歳の昨季控え選手に移籍金1100万ポンド(20億円強)という補強は、普通ならば妥当性が疑われても不思議ではない。だが、チェフの獲得は例外。GKは選手寿命が長いことに加え、チェフはまごうことなきワールドクラスの実力者なのだ。
モウリーニョが「あり得ない」と断じたアーセナル入り。
チェルシーを率いるジョゼ・モウリーニョがチェフの売却を嫌っていた理由も、「掟破り」と言われる地元ライバルへの放出だからというだけではなく、アーセナルに戦力アップを確約する移籍だったからに他ならない。昨季末の「控えGKがチェフでなければ優勝できていたかどうかは怪しい」という発言は素直な気持ちだっただろう。
そのモウリーニョが、「最終的にはオーナー次第だが、個人的にはあり得ない」と言っていたアーセナル入りの実現は、ひとえにそのオーナーの「情」によるものだ。その事実は、チェフ自身と彼の代理人もロマン・アブラモビッチへの感謝のコメントで認めている。
「暴君」と呼ばれることさえあるチェルシーのロシア人富豪だが、キャプテンのジョン・テリーをはじめ、オーナーとの距離が近い主力の1人だったチェフに対しては、「意中のクラブへの移籍」を許すことで在籍11年の功績に敬意を示した。
チェフが望んでいたのは、ベースはロンドンのままでレギュラーの地位を取り戻せる新任地。ロンドン勢ではチェルシー以外に唯一のCL出場チームであり、まだスパルタ・プラハの若手GKだった14年前から興味を持ってくれていたベンゲルが指揮を執るアーセナルこそが「意中のクラブ」だった。