フットボール“新語録”BACK NUMBER
ドイツのW杯優勝を支えた日本人。
「日本に『チーム・トウキョウ』を」
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byChristian Schillings
posted2015/07/06 10:50
ドイツ代表のレーブ監督(右)は全面的な信頼を『チーム・ケルン』においていた。日本人唯一のメンバーである浜野裕樹(左)は、主にセットプレーの分析を担当した。
ハリルホジッチ率いるアルジェリアを総動員で分析。
大会が始まると、『チーム・ケルン』にとっても新たな戦いが始まった。毎日のように行なわれる試合をすぐに分析するのだ。ケルン体育大学の研究室に顔を出して「分析することはありますか?」とオーダーを聞き、すぐに家に帰って作業をした。
最も慌ただしくなったのは、決勝トーナメント1回戦の直前。G組のドイツはH組のベルギー、韓国、ロシア、アルジェリアのいずれかと対戦する可能性があり、アルジェリア以外の3国について分析を進めていた。しかし、2位で勝ち上がってきたのはハリルホジッチ監督が率いる伏兵アルジェリア。急遽、メンバー総動員で分析を行なうことになった。
「僕が担当したのは選手分析です。割り振られた2、3人の選手に対して、代表とクラブの両方の試合を見ました」
だが、サプライズはこれだけではなかった。試合当日、ハリルホジッチはさらなる秘策を用意していた。アルジェリアの先発は、分析チームの予想とは大きく異なるメンバーだったのである。
「一番驚いたのは主力を外して、DFを5人起用してきたことでした。あとで現地の分析責任者に聞いたところ、フォーメーションが予想できず、キックオフからアルジェリアの出方を見なければならなかったそうです。結局、ドイツは延長戦の末に勝利することができましたが、ハリルホジッチ監督の戦略に苦しめられたことは間違いありません」
ブラジル相手に、まさにセットプレーから先制点。
ドイツは続くフランス戦を1-0で競り勝ち、そして迎えたのが地元ブラジルとの準決勝だ。セットプレーを分析してきた浜野にとっても大一番である。
「ブラジルのセットプレーの守備は、マンツーマンとゾーンを併用するオーソドックスなやり方でした。僕の分析が生きたかはわからないのですが、ドイツの先制点はCKから生まれました。ヘベデスとフンメルスがニアポスト側へ意図的に走ってゴールの前を空け、ミュラーが回り込むように中に入って行き、彼をマークしていたダビド・ルイスをクローゼがブロックした。これによってミュラーが完全にフリーになったんです」
ドイツの連係がはまって、ファーサイドに来たボールをミュラーがボレーで合わせてドイツが先制した。分析に携わった者として、感無量の瞬間だった。