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新境地のパワープレーで1回戦突破。
錦織圭、1年前との“心変わり”とは。
posted2015/06/30 11:25
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph by
AFLO
錦織圭が「楽しい試合ではなかった」と話したのは、昨年のウィンブルドン、1回戦のあとの会見だった。世界のテニス選手が憧れる舞台に立ちながら、「楽しい」「楽しくない」の価値観で試合を振り返るところが彼らしさだが、楽しくなかった理由を錦織はこう説明した。
「(本来は)常にブレークチャンスをねらいながらの試合運びなので、それができないのはストレスになる」
この試合では得意のサービスリターンが不発だった。対戦相手のフランス選手は世界ランキング70位台で、失うものがない。203センチの長身から思い切りサーブを叩き込む相手に、錦織は20本のサービスエースを許した。ストレート勝ちだったが、相手のサービスゲームをブレークしたのは2度だけだった。
リターンゲームが好きなのは、読みや駆け引きなど創意工夫で相手のサーブを攻略する楽しさがあるからだろう。そこが彼の最大の持ち味でもある。しかし、相手にイチかバチかでこられたら、錦織がどれだけ緻密に考え、工夫しても、結果は偶然に左右され、せっかくの創意工夫も帳消しになってしまう。そういうゲームを彼は「楽しくない」と振り返ったのだ。
「楽しさは減っても我慢が大事」という“心変わり”。
そんな試合から1年。今年のウィンブルドンに錦織は第5シードで臨んだ。価値観も微妙に変わったようだ。開幕前の会見でこんなコメントがあった。
「芝では簡単にはリターンできないし、ブレークもなかなか難しい。その楽しさは少し減るが、我慢することも芝では大事」
ここでも「楽しさ」という言葉を使ったが、リターンゲームに向き合う姿勢は大きく違う。楽しくなくても我慢すべきところは我慢する、その分、「サービスゲームに集中力をとっておく」というのだ。リターンは彼の代名詞、その錦織の、なかなか興味深い“心変わり”だった。