詳説日本野球研究BACK NUMBER
森友哉・清宮幸太郎が好球必打な訳。
イチローと古田敦也が作った「時代」。
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2015/04/25 10:40
“高校入学の時点で鳴り物入り”という異例の前評判の中、春季東京大会でデビューした早稲田実・清宮幸太郎。184cm、97kgという巨躯に秘められた可能性や如何に。
清宮の最終的な評価は、甲子園を経てから。
プロ野球ではイチローが火付け役となり、高校野球界では大阪桐蔭がトップランナーとなって好球必打を実践する。それが野球界全体の常識となって、早稲田実の1年生スラッガー・清宮にも受け継がれていく。野球界はいい流れに乗っていると思う。
話を森と清宮に戻そう。清宮に対して「清原和博、松井秀喜クラス」という声がよく聞かれるが、清原と松井は甲子園大会で全国の好投手を打ち砕くことによって“超高校級”の評価を得た。甲子園未経験の清宮に「清原、松井クラス」という評価を与えるのは、まだ時期尚早ではある。
春季東京大会4回戦の早稲田学院戦、準々決勝の関東一戦を見た印象を言えば、潜在的なスラッガーとしての素質には計りしれないものがある。早稲田学院戦では力があり余っているのか、ヘッドを前に倒して戻す小さい動きを繰り返していた。溢れるパワーをより活かすために反動を使いたがっているようだ。それほど速くない投手だったため差し込まれることもなく、強い打球をライト方向に集中していたが(5打席すべて打球は右方向)、速い投手と対戦したらどういうバッティングをするのか、それは今後のお楽しみである。
よかったのはタイミングの取り方で、緩急対応型と言ってもいいゆったりとした始動とステップに特徴があり、呼び込んで打った第1打席(二塁打)と、前さばきで打った第4打席(右前打)という具合に、ヒットにバリエーションがあった。個人的にはバッティングの柔軟性という点で、松井よりも清原のほうに近いのかなと思う。
大阪桐蔭の選手教育が球界に与える好影響。
森はバッティングの積極性だけでなく走塁面で大阪桐蔭時代と同様、全力疾走を自らに課していた。楽天戦の第2打席で二塁打を放ったときの二塁到達タイムは、私のストップウォッチでは8.08秒だった。私が俊足の目安にしている二塁到達タイムは8.3秒未満なので十分速い。プロ1年目だった昨年の1月中旬、自主トレをしている森を取材して全力疾走について聞くと、こんな答えが返ってきた。
「自分だけじゃないんですけど、大阪桐蔭は野球のプレー以外のところを大事にするという方針がありました。投げる、打つだけじゃなく、そのほかのところもしっかりしようというか、アウトになっても全力で帰ってきたりとか、外野フライでも二塁まで行くとか、そういうことを徹底していたので、そこは大阪桐蔭で自然に身につけられた部分なのかなと思います」
こういう発言を聞いていると、大阪桐蔭が高校野球界のトップランナーでいてくれることの有難みをしみじみと感じるのである。その牙城に早稲田実および清宮が3年間でどこまで迫れるのか楽しみにしたい。