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バイクに乗っても乗らなくても速い!
若き王者マルケスの美しき全力疾走。
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph bySatoshi Endo
posted2015/04/19 10:30
ヘルメットにレーシングスーツ、ブーツと装備重量は相当なものだが、マルケスはピットロードを速く、美しく駆け抜けた。
「もう1本、もしかしたら間に合うかもしれない」
その瞬間をマルケスはこう振り返る。
「エンジンの異常を知らせるウォーニングランプが点灯したのですぐにエンジンを止めた。シーズンで5基しか使えないからね。そのときにボードを見たら7番手までポジションが落ちていた。決勝日の天候が不安定そうだったのでなるべく良いグリッドを獲得しておきたかった。もう1本、もしかしたら間に合うかもしれないと思ったんだ」
そして全力疾走で駆け出すことになるのだが、レーシングスーツにヘルメット姿のまま素晴らしいフォームで駆け抜け、スピードは一度も落ちなかった。バイクに跨ってピットアウトしたときには、予選セッションは残り2分30秒になっていた。
終了8秒前にフィニッシュラインを通過し、PP獲得。
マルケスが全開でアタックしても2分2秒台のコース。アタックをもう一度成立させるためには、セッション終了前にフィニッシュラインを通過しなければならない。
サーキットの観衆と、テレビやインターネットで見ている世界中のレースファンが固唾を呑んで見守る。
果たしてマルケスは終了8秒前にフィニッシュラインを通過。サーキット中で拍手が起こる。そして、ラストチャンスとなったアタックでベストタイムをマークしてフィニッシュラインを通過。PPを獲得したときには大きな歓声が沸き起こった。
何もかもが“強運”としか言いようのない出来事だった。
まず、ウォーニングランプが点灯したのがホームストレートでなければ、こんなことは絶対に不可能である。
加えて、残り2分30秒しかないときに、マルケスのスペアマシンに装着されているフロントタイヤは、それまで使っていたハードではなく、温まりやすいミディアムだったこと。タイヤに厳しいCOTAでは、よっぽど気温が下がらなければ、予選でも決勝でもミディアムを使うことはないのだが、コースインした周回にペースを上げるには、ミディアムの方が良かったからだ。