プレミアリーグの時間BACK NUMBER
「有望な選手」は、まだ力不足の意。
武藤嘉紀に伝えたい“急がば回れ”。
posted2015/04/20 10:30
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph by
Takuya Sugiyama
チェルシーによる武藤嘉紀への獲得オファーが報じられたのは、英国時間の4月9日。発信源の日本は、その前日から大騒ぎだったと聞く。だがイングランド国内は静かだった。最新情報として伝えられはしたが、日本で「正式」と話題を呼んだオファーは「FC東京によると」という補足付き。そこには、「国際的に無名な日本人に本当に手をだすのか?」という懐疑心さえ感じ取れた。
このイングランド側の反応は、日本側が騒いでしまうのと同じで仕方のないことだ。プレミアリーグとJリーグとの間にあるレベルの差は、日本人でも認めざるを得ない。その上今季のチェルシーは、あのジョゼ・モウリーニョ監督の下でリーグ優勝へと近付いているチームときている。
そのチェルシーの現地サポーターの中には、さすがに「我がチーム」の「噂」が気になったのか、YouTubeなどで武藤のハイライト映像を確認した者もいるようだ。ファンサイト上には、フィニッシュの精度や縦に抜けるスピードを「なかなか」と褒めるコメントも。しかし、「JリーグのDFが相手」との留保がつくケースが目についた。
『タイムズ』紙の記者は武藤を「戦力」とみなさず。
メディアの視線はさらに冷めている。当地での報道翌日にあたる4月10日、筆者はモウリーニョの記者会見へと向かった。会見の主旨は週末のQPR戦プレビュー。クラブハウスの最寄り駅で一緒になった『タイムズ』紙の記者に、「今日は他にも日本人記者が数名来るよ」と言うと、向こうは不思議そうな表情だった。
武藤の一件に関する取材という理由を伝えると「ああ、その話か」と言いつつも、頭の中に「ムトウ」の名がインプットされている様子はなかった。例年、夏と冬には移籍市場担当となる彼の反応に、改めて武藤へのオファーは「戦力」補強とはみなされてはいないと痛感した。
続いて彼は、「やっぱり、スポンサーの匂いがする?」と訊いてきた。これも、イングランドのメディアにすれば無理もない捉え方だ。横浜ゴムとの大型スポンサー契約締結が発表され、今季終了後の日本遠征ツアー計画も報じられた直後という、チェルシーの「日本戦略第3弾」のようなタイミングだったのだから。