マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
選抜前に“あまのじゃく”選手診断。
高橋純平はまだ、今が旬は高橋奎二。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2015/03/19 10:40
県岐阜商の高橋純平は、早くもドラフト1位候補と言われる本格派右腕。しかし、選抜では夏以上に「戦前の予想を覆す大物」が登場するのも事実なのだ。
逸材揃いの野手の中でも目立つ、敦賀気比・篠原涼。
今年の野手には逸材が多いと思う。
敦賀気比・平沼翔太。
この選手の強打と球威は、すでに昨夏の甲子園で全国のファンに証明ずみだ。50mを5秒台で走る俊足に、140km前後の速球とタテのスライダー、チェンジアップとの緩急をあやつる投球は超高校級といわれている。
確かにそれもそうなのだが、試合を見るたびに、私には別の選手のプレーのほうが目に飛び込んできてしまう。
三塁手・篠原涼。
私にはこの小柄な右投げ左打ちが、あの若松勉(元・ヤクルト監督)選手に重なってしょうがない。なにが重なるのか? 凡打である。
ボールの下をこすったような、いわゆる打ち損じの打球が外野に行っても、打球がその勢いを失わない。若松選手がそうだった。
振り抜けているからだ。自分のいちばん力の入る姿勢とタイミングで打っているからだ。
これは、ある意味バッティングの「極意」である。そのいちばん突き詰めた場所の近くに、すでにこの左打者は行き着いているということだ。
見ていて、理由がはっきりわかる「広角打法」。
よほど振り込んだはずだ。それも、きっと数だけじゃない。
しっかりトップを作って、右サイドから踏み込んで、体のタテ軸に全身の力を絞り込むようにしてスイングする。始動はもちろん下半身から。軸足の親指と足首の回転から、上に向かってねじり上げるように。
投手のフォームを想像しながら、それに合わせてタイミングをとって、理論の合理性を意識しながら。そういう意義のある素振りを何千本、もしかしたら何万本も振り込んで、自分の体に刷り込んできたはずだ。
そうでなければ2年の夏や秋に、こんなにどんな球種のどんなコースも、自分のゾーンの中で弾き返せるわけがない。
見ていて、理由がはっきりわかる「広角打法」。このボールはこう打って、あそこへこんな打球で。彼の中に、打球のイメージができている。
背中を丸めて、子供のいのししのように一塁に疾駆する姿に、頑張らなきゃいけない“理由”があるように見える。
そういえば若松選手も北海高、電電北海道の頃は三塁手だった。
小柄な選手は、すぐにプロに進むより段階を踏んだほうがよいと考えている。しかし、アマチュア野球の高いレベルで痛い目に遭いつつ経験値を上げて、プロに入って25、6になった頃、確かなバッティング技術としたたかな実戦力を兼備した“アベレージヒッター”として、投手から最も嫌がられる存在になっているのでは……。
私の“妄想”は広がっていく。