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力士の大型化で減った「長い相撲」。
新三役・照ノ富士の受けは人気の元?
text by
阿部珠樹Tamaki Abe
photograph byKyodo News
posted2015/03/19 10:30
モンゴル生まれの23歳、照ノ富士。写真をとられる時の表情が豊かで、色白な丸みを帯びた体型とあいまって早くも人気の気配だ。
豪快な振りまわしに持久戦と、幅のある受け。
5日目の佐田の海戦では、立ち合い、きれいに二本差され、押し込まれたが、体力的に上をいっている確信があったようで、あわてることなく相手の両腕を決めて、振りまわすように土俵の外に放り出した。きめ出し。体勢は完全に受けに回っていたが、パワーで圧倒した痛快な一番だった。
翌日の栃煌山との取り組みでも、低くて、差し手争いのうまい相手にもろ差しを許す。前日の相手よりパワーもあるので、今度は強引に振り回したりはできず、しばらく耐える。相手が攻め立てても小手投げなどでしのいで受けのしぶとさを見せる。そうやって徐々に相手が消耗するのを見計らい、今度は右を差して自分有利な体勢に持ち込んだ。攻めきれずに体力を失った相手は、右を差されたことで体が浮き、たまらず土俵を割った。
同じもろ差しを許しても、受けにいろいろなバリエーションがある。一気に攻守所を変えるような豪快な振りまわしもやるが、徐々に相手を疲れさせ、その間に自分有利に持ち込む持久戦もできる。
3度目にもろ差しを許した8日目の大関稀勢ノ里戦は、さすがに油断なく攻めた大関の寄りに屈したが、その前の2番はこの新関脇の受けのうまさを見せつけた取り組みだった。
いってみれば、出遅れ癖のある馬みたいなもの。
もろ差しになられたりするのはわきが甘いためだ。立ち合いの圧力がもっと激しければ、簡単に自分有利になれるだろう。だからまだまだ改善、進歩の余地はある。立ち合いに張り差しに行って相手に十分の四つになられる悪癖もある。
しかし、やむなく強いられる受けの立場は、必然的に大相撲、力相撲につながる。今の照ノ富士の相撲は密度が濃い。だから見ていて楽しい。
照ノ富士はなにも、双葉山を目標に、受ける相撲を取っているわけではない。受けに回らざるを得ない弱点を抱えていて、その形を強いられる。いってみれば、スタートで出遅れ癖のある馬みたいなものだ。だが、出遅れ癖がありながら、豪快に追い込む馬は、小器用に立ちまわる馬よりも人気がある。
思うに、照ノ富士は逸ノ城などと比べて不器用なのだろう。逸ノ城は立ち合いの変化もできるし、今場所などは今まで見せなかった突き押しも見せた。修得が早い。それに比べると、照ノ富士は呑み込みは遅いが身につければそれを確実に武器にする手堅さがある。怖い顔と勝った後のはじける笑顔の対照も面白く、大関になれば人気も出るだろう。