岩渕健輔、ラグビーW杯と東京五輪のためにBACK NUMBER
岩渕健輔が語る、代表GM5つの仕事。
「変えるのが難しいこと」を変える。
text by
岩渕健輔Kensuke Iwabuchi
photograph byWataru Sato
posted2015/02/11 10:30
36歳という若さで日本代表のGMに就任した岩渕健輔氏。海外でのプレー経験もあり、日本の風土に染まりきっていなかった彼だからこそ、多くの改革は成功したのかもしれない。
GM就任以来、大きく増やした代表合宿の時間。
GMとしての3つ目の仕事は、具体的な強化プランの立案になります。代表のGMという仕事が、一般的なGMと一番違ってくるのはここかもしれません。
たとえばクラブチームのGMの場合は、自分のチームに所属している選手の強化だけを考えれば済みます。しかし代表チームのGMの場合は、クラブチームや大学、高校等と調整をしながら選手を招集し、強化を図っていくというスタンスになるからです。
そもそも競技の別を問わず、代表チームは活動期間が十分に取れないという問題を抱えています。国内リーグだけでなく、海外のクラブチームでプレーしている選手がいると、招集の問題はさらに難しくなる。
事実、かつての日本代表では、W杯の前年でも代表合宿を1年間に85日間行なう程度でした。しかし昨年は年間に114日合宿を行なうなど、活動日数は1カ月分近く増えています。さらには7月に夏期合宿を実施するようになっただけでなく、トップリーグや大学ラグビーが開幕した後の9月や10月、1月にも合宿を行なうようになりました。
代表として活動できる日数が著しく増えたのは、私がGMになってからの3年間で、大きく変わった点の一つだと思います。
「代表で選手が成長する」という派遣側のメリットを。
とはいえ、このような協力体制は一朝一夕に構築する事はできません。いかに代表の強化にとって不可欠でも、協会側が一方的に話を進めていくのは不可能ですし、信頼関係を築き上げ、納得して選手を送り出してもらえるようにすることが大切になります。
当然、改革を進めていく際には、幾度となく話し合いや調整を重ねました。
希望するチームに対しては、逆に代表側からコーチを派遣させていただいたり、選手の所属チームと年に2回、必ず情報交換をするようにもしました。
中でも一番大きかったのは、代表での活動を通して選手が成長していくことを実感してもらえるようになった点だと思います。
代表の合宿に参加することを通じて、選手たちに目に見えた違いが出てくる。こうなると選手自身はもとより、トップリーグのクラブや大学、高校のチーム側でも、代表に協力することが自分たちのチーム作りにとってもプラスになるという確信が生まれてきます。ある意味、私が最も時間をかけたのは、信頼関係と相互理解に基づく、ポジティブなサイクルを作り出すことでした。