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箱根駅伝は“修行”から檜舞台に。
青学のワクワクと、服部勇馬の言葉。
posted2015/01/11 10:40
text by
金哲彦Tetsuhiko Kin
photograph by
Hirofumi Kamaya
「“山の神”じゃなくて、今度の箱根の主役は“山の神野”ですから」
レースのかなり前から原晋監督はユーモアたっぷりの話しぶりで語っていた。
そして、神野大地は誰もが想像すらしなかった大記録で駆け抜けた。
10時間49分27秒という大会新記録と神野というとてつもないインパクトを残した青山学院大学の初優勝。
そんな第91回箱根駅伝は、記録だけではないいくつかの示唆を学生長距離界に残した。
広島・世羅高校出身で苦労人の原監督は普段から気さくな人柄である。
しかし、「ワクワク大作戦」というキーワードを使い始めた時はやや心配した。
ライバルの東洋が定番にしてきた「その1秒をけずりだせ」のストイックさと比べ、あまりにも軽い。
フィニッシュ後、新記録で走った5区の神野大地のガッツポーズと余裕の表情。次々と倒れる2位以下の選手たちとは次元が違った。
8区で区間賞を獲得した高橋宗司の「遊行寺の上り坂も楽しくてしかたなかった」という屈託のない笑顔も印象的だった。
箱根駅伝翌日、日本テレビの情報番組「シューイチ」にコメンテーターとして出演した際、青山学院の選手たちは監督が同席している楽屋裏で、交際していた彼女と駅伝直前に別れた話を臆することなくしてくれた。
実に明るいのだ。
長距離走は、我慢や忍耐の種目だと言われてきた。
「ワクワク大作戦」は、プロ野球やJリーグで観客を喜ばせるキャッチコピーとしてはいいかもしれないが、駅伝ではおよそ思いつかない言葉だ。
なにしろ、陸上競技はピンポイントでレースに合わせなければならない一発勝負。結果という重圧に耐える力と本番の集中力が必要とされる競技なのだ。
かつての瀬古利彦選手が“修行僧”にたとえられたように、昔から長距離走は我慢や忍耐の種目だと言われてきた。だからこそ、勤勉で我慢強い日本人の性質に合っている。