オリンピックへの道BACK NUMBER
海老沼を倒し、世界一の高校2年生。
柔道66kg級・阿部一二三の快進撃。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAFLO
posted2014/12/21 10:50
日本屈指の激戦区、66kg級で一躍時の人となった阿部一二三。twitterでは高校生らしい一面をのぞかせ、練習風景や彼女とのやりとりなどがつぶやかれている。
接近する迫力、そして豪快な投げ。
先に勢いと書いたが、到底勢いだけでおさめられる成績ではない。中学生の頃から全国中学校大会や国際大会で優勝を重ねて期待を集めてきたことを考えれば、順調な成長の結果と言えるのかもしれない。それでも、「初」尽くしの快進撃に大きな注目が集まるのは当然のことだ。
何よりも、畳の上で見せる戦いぶりが魅力的なのだ。海老沼との試合でも見せた接近しての戦い方、そして高い位置で掛けることで生まれる、豪快な投げ。大技で一本を取れるのが、阿部の柔道の魅力である。
相手との間合いを詰めていく激しさは、阿部の積極的な性格を表しているように思える。またその試合運びからは、体幹の強さがうかがえる。
阿部は小学生の頃から消防士の父が考えた独特のメニューでトレーニングを積んできたという。それもまた、強さの支えとなっている。
東京五輪の星ではなく、リオ五輪に間に合わせる!
さらに1つ指摘したいのは、講道館杯、グランドスラム東京が、狙って残した成績であったことだ。
阿部は年齢的に、東京五輪の星として紹介されることがしばしばあった。2020年に22歳であることを考えれば、たしかに現実的な目標とも言える。しかしそれは、逆に言えば2016年のリオデジャネイロ五輪には間に合わないと見られていたことを意味する。
だが阿部自身は、リオデジャネイロ五輪を強く意識している。講道館杯後のコメントは、まさに直球だった。
「これでリオに近づけました」
2015年の世界選手権代表はもちろん、2016年のリオデジャネイロ五輪を考えると、ここで結果を出して日本代表に定着する必要がある。それを自覚したうえで、講道館杯で優勝してグランドスラム出場権をつかみ、そしてグランドスラムの優勝で、2015年2月にドイツ・デュッセルドルフで行なわれるグランプリへと派遣されることになった。チャンスを自らつかみに行き、そして狙い通り優勝を逃さなかったこともまた評価に値する。
66kg級は海老沼に限らず、国内に有力選手がひしめく激戦区だ。チャレンジャーとして思い切り挑むことのできる状況とは異なり、期待を集めプレッシャーのかかる状況でも同じように積極的に戦っていけるのかも課題となるし、年齢的に駆け引きの面でまだ足りないところはある。
しかしそれらを差し引いても、これからの柔道界を担う存在になってもおかしくない存在であり、年が明けてからの1大会、1大会が楽しみだ。