セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
切り込み、打たせ、自ら決める。
本田がミランで築いた確固たる地位。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byAFLO
posted2014/10/27 16:30
昨年まで、フィオレンティーナを苦手にしていたミラン。勝利こそのがしたものの、着実に勝ち点1をもぎとり、進歩のあとを見せた。
前線にできたズレを、インザーギは修正できるか。
ただこの日、しばらくゴールから遠ざかっているメネズとエルシャーラウィは、さして厳しい守備を敷いていたとは言い難いフィオレンティーナを前に、自分が決めようと焦り、無理なシュートを打つ場面が目立った。
離れすぎかと思えば、ポジションがかぶる。68分には、相手エリア前でボールを有利にもらおうと、斜めにピタリと並走した。
80分から途中出場したトーレスも、ピッチに立てば献身的な姿勢を見せるものの、まだセンターフォワードとしての真価を見せるには至っていない。
本田にもボールが集まらなかった。相手DFマルコス・アロンソの緩いマークに、右サイドはヌルヌルと追い込まれた。開きすぎた両サイドの間で、ボールは宙を彷徨った。
彼らの間にできた小さなズレを修正していくのは、指揮官であるインザーギの重要な仕事だ。
イタリアの指導者には、理想とする「型」がある。
イタリアの指導者は、日々の練習で繰り返した“自分の望む型”が試合で実現したときに、最高のカタルシスを得る傾向にある。
ウディネーゼ時代のザッケローニ監督に師事した選手に、何人か話を聞いたことがある。
3-4-3の反復練習をしていたとき、彼の口癖は「サッカーはタイミングが命。パスを出すのも、受けるのも50cmずれれば台無しになってしまう」だった。
別の機会に、カルチョの大御所サッキへインタビューしたときも、彼から同じ趣旨の言葉を聞いた。
インザーギにも理想とする「型」がある。それを机上の空論から、現実へ還元する最も近いところに、背番号10はいる。
正直に書けば、ELを戦った後でサンシーロに乗り込んできたフィオレンティーナは、チームが持つポテンシャルのパフォーマンスからは程遠かった。FWロッシもFWマリオ・ゴメスも故障でいない。MFクアドラドにも、W杯で発散していた陽気な怖さがまるでなかった。
不用意な失点さえなければ、勝ち切ることは決して難しくなかった。だが、長いシーズンにはこういうゲームが1試合や2試合はあるのかもしれない。